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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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385手間

 デアラブ侯爵、カルンの異母兄の一人の祖父…つまり側室に入っている一家の当主だ。

 側室腹とはいえ王位継承権を持った子息の祖父となれば絶大な権力を持ちそうなもの。

 だが現国王は正妃腹の子供だけを、要は側室は政治的理由で渋々とっただけというスタンスなので重要視されていない。


「それが率いていたとなると…ここを襲ったのは、私軍の連中ということになりますね」


「あんたらも兵士なんだろ? なんで仲間内のっ!」


 少年が、素行不良の者を忌々しく吐き捨てるかのような声音で言った隊長に食って掛かる。


「それは誤解です、我々をあんな連中と一緒にしてもらっては困る。私軍というのは貴族の兵、我々は栄えある王国に忠誠を誓った誇り高き騎士です」


「あいつらは国の軍じゃないってことか?」


「端的に言ってしまえばそうです、奴らは金や権力に尻尾を振っている微塵の誇りも持ちえない者たち。もちろん中には真っ当な者や渋々従っている者も居るでしょうが、汚泥の中にあるのならば外からは区別が付きませんし結局は腐るだけです」


「りょ…領主様もそうなのか?」


「あぁ、そうですね。辺境伯の兵は違います、彼らは我々と同じく誇り高き騎士です」


「そっか!」


 ここは辺境伯領、隊長の豚を品定めするような声に心配になったのだろう、恐る恐る隊長に聞く少年に今度は一転弾むような声で辺境伯軍の評価を言う隊長に、少年も明るい声で返事をする。

 少年の反応を見るに、リベルタ辺境伯はよほど領民に慕われているのだろう、流石あのウィル…ウィルヘルムの父親だ。


「そうじゃそうじゃ。リベルタ辺境伯の息子はカルンと友達じゃからの!」


「カルン…?」


「王太子殿下のお名前ですよ」


 聞きなれない名前に首を傾げる少年であったが、隊長の助太刀にまたも顔を明るくする。

 王の言葉に反応してる辺り国王も随分と慕われているというか大事に思われているようだ。


「さて少年や、神殿に逃げておる者がおったと言ってたの?」


「あぁ、けどあんだけ焼かれてたら…」


「見た目は派手に焼かれておるが、建物自体は無事なようじゃからのぉ…中の者も無事な可能性はあるのじゃ」


「ほんとうか!」


 外が無事だからといって中まで無事という保証はない、しかしそれでも外もダメよりは十分可能性はあるだろう。


「覚悟だけはしておくんじゃな」


「あ……あぁ…」


 とりあえず、窓も砕け家財も文字通りひっくり返された辛気臭い場所にいつまでも居る訳にはいかない。

 建物の外に出るとそこには三人ほど兵とカルンが、外を警戒するかのように立っていた。

 他の兵士たちは何をしているかのと思えば、どうやら神殿の扉を開こうと悪戦苦闘している最中のよう。


「少年よ、これがカルンじゃ」


「これって……」


 ワシのあんまりな紹介に苦笑いなカルンと、まさか王太子殿下本人が居るとは思わなかったのだろう、突然の出来事にガチガチに少年は固まってしまった。


「ねえや、彼は?」


「うむ、この街の住人じゃ。彼の話によれば神殿に逃げ込んでおる者がおるようでな」


「おぉ……」


 一人とはいえ生き残りが居て、まだ増える可能性もあるということにこの街の惨状を見て、今まで口を真一文字に結んでいた兵士たちも頬を少しだけ緩め声をあげる。

 それもまずは神殿の扉を開かないことには確認もできない、未だガチガチに固まってる少年を連れワシらは神殿の入り口へと向かう。


「ダメです隊長、この扉ピクリとも動きません。ん? かれはもしやこの街の……?」


「その通りだ、彼の話によればこの中に逃げた人も居るそうだ」


「それは本当ですか! あぁ、よかった…」


 隊長と兵士の短いやり取りだが、民の無事に心の底から安堵する声。

 これだけで隊長の言う誇り高い騎士という話は、本当だとよくよくわかる。


「しかし隊長、どうも中にも何か仕掛けがあるようで。ぶち破ろうにもこんだけ硬い石じゃぁ…」


 コンコンと兵士の一人が手の甲で扉を叩けば実に硬そうな音、確かにこれは攻城兵器でも持ち出さなければ破れないだろう。


「ふむ、少年や。この扉はどっちに開くのかの?」


「え? 普段は内側に開いてるけど…?」


「ふむ…では。おーい、中に居るのじゃったら扉から離れておくのじゃぞー?」


 ゴンゴンと強めにノックしてから中へとそう呼びかけるが、動く音も返す声も聞こえない。

 もしかしたら中はもう…そう思うがこれだけ厚そうな扉だ、中の音も外の音も遮断しているのだろう。

 そう思うことにして両開きの扉に手をかける。


「えっ? まさかねえや扉を吹っ飛ばす気じゃ……」


「そんなわけあるか! 普通に扉を開くだけじゃよ」


 ふっと力を入れて扉を押すと中に何かをつっかえさせているのだろうか、硬く丈夫なもので押さえられているかのような感触が手に返ってきた。

 だがしかし、一歩踏み出せばそのつっかえが歪みミシミシと悲鳴を上げているのが扉を伝い手のひらに聞こえる。

 もう一歩踏み出して手を勢いよく押し出せば、扉に手が少しめり込むのと同時、バギャンと凄まじい音を立ててつっかえが折れたのだろう。

 重い石で出来てるとは思えない速度で、扉が勢いよく開いた。


「う…うむ、まさかこうなるとはの……」


 神殿内は見るも無残なことになっていた…明かりが無く暗い神殿内は外から差し込む光で見える範囲だけでも、置かれていたであろう長椅子が薙ぎ払われているのが分かる。

 中で何か騒ぎが起きたという訳では無い、これはワシが折ったつっかえが吹き飛んだ影響だろう、その証拠に薙ぎ払われた椅子の先にうっすらと丸太の様に太いつっかえが転がっているのが見える。


「だ…誰も巻き込まれてはおらんよな……?」


 明かりの法術を使い神殿内を見回してみるが、つっかえに轢かれた者どころか人っ子一人見当たらない。


「む? 誰も居らんのじゃが、少年よ本当にここに逃げた人がおるのかえ?」


「ほ、本当だよ! 俺はしっかり見たんだ!」


「ふーむ? 隊長やおぬしはなんぞ知らんかえ?」


「さて私も神殿の構造までは…ここを破ろうとする者がいれば入り口に居るのも危険です、ただ単に隠れているだけでは?」


「それもそうじゃな」


 ワシが証明した通り強引に扉を開いたら中は大惨事になる、それはここを管理する者なら予想できることだろう。

 既にワシの力を知っているカルンと隊長、そして中の人の安否の方が気になっている少年以外の扉に何か引っかかってるな程度の感覚で開けたワシに、驚愕で固まっている兵を置いて中を探そうと神殿に足を踏み入れるのだった…。

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