39手間
よっと一息で馬車から飛び降り、馬車へと振り返る。
御者が持ってきたタラップで降りてくる二人組のお姉さん達に手を振って別れを告げる。
お姉さん達は世界樹の街のギルド職員で、帰りの馬車の中で仲良くなった。
色々話はしたのだが、さすがにギルド職員なだけあってダンジョンの事にも詳しかった。
これから東に向かうという彼女らの背中を見送り、一先ずギルドへ昇級の報告に向かうことにする。
北門からギルドへ向かう道中は何の変わりもない。
明確な季節が存在しないこの世界、ひと月程度では時間の流れを感じれない。
そう感じるのは、ひと月あれば街の装いがガラッと変わり、気温も急激に変化する世界を知っているからだろうか。
そんな詮無いことを考えつつ歩いていれば、あっという間にギルドへと着いてしまう。
ギルドに入れば、このギルドの受付嬢のフリーの熱烈な歓迎を受けつつ、ギルド長がいるかどうか訊ねれば、しばらく所用で留守にしているとの事だった。
直接の礼は後日改めてする事にして、昇級の報告などを伝えてもらうことにする。フリーから昇級の祝いの言葉をもらい、ご無沙汰だった狩りに出ようと扉に向かう。
するとまるでタイミングを計っていたかのように扉が開き、アレックスを先頭とした集団が入ってきた。
後ろに続く人を見れば、ジョーンズとインディ、そして見知らぬ少年だった。
「おぉ、アレックスではないか。久しぶりじゃの。変わりはないようで何よりじゃ」
その声に一瞬驚いた様な顔をしたが、すぐに嬉しそうに笑う。
「セルカか、久しぶりだな!お前の方はずいぶんとせいちょ…変わってないな…?」
「まぁ、普通ヒューマンじゃと見目が随分と変わる年頃のはずじゃしの」
「いやー、獣人もその歳ならかなり変わりそうな年頃のはずだが…?」
「ふふふ、残念ながらワシはあと三百年ほどはこのままじゃの」
「あー、長命種だったのか。そりゃ悪いことを言ったな」
わしわしと頭を掻き、バツの悪そうな顔をアレックスがする。
「なに、気にするでない。あと三百年もすればぼんきゅぼんじゃ!」
「はっはっはっ!セルカなら将来は美人間違いなしだな!」
そこで一区切り付いたと判断したのか、ジョーンズとインディも挨拶をしてくる。
「皆も変わりないようで何よりじゃ、ところでサンドラがおらんようじゃが如何したのじゃ?」
アレックス達は、今やセルカ坑道などとこっ恥ずかしい名前で呼ばれているあの洞窟を探索して以来、4人で正式にパーティーを組んで行動していた。
しかし現在、その中の一人が居ないと言う事に少し嫌な予感がしてしまう。
「そういう事はよくあることっちゃよくあることだが…今回は大丈夫だ。そう心配するこたぁない」
不安が顔に出てたのか、アレックスが大丈夫だと理由を教えてくれた。
「サンドラは、お前が旅している間に北の領地の商人と出会ってそのまま結婚してな、ハンターは引退したんだよ」
それは嫌な予感とは正反対の、実に喜ばしい理由だった。
「おぉ!それは実によい事じゃの。北の領地に寄った時にそれを知っておれば良かったのじゃが」
「それは仕方ねーよ、北の領地に嫁いでったのは結構最近だからな」
「ふむ、では北に行ったときにでも祝いの品を送らねばの」
「そこまで気を使わなくても、祝いの言葉だけでいいんじゃないか?挨拶できなかったことをずいぶん気にしてたみたいだしな」
「それは悪い事をしたのぉ。ともかくそれは北に行ったときに考えるとして、そろそろそこの坊主を紹介してはくれんかの?」
先ほどからアレックスらと共にいた少年。
サンドラと違いローブに杖という如何にもな恰好から、魔法を主に使う者というのはわかる。
「おぉ、わりぃ忘れてたわ」そう言って少年の背をぐいっと押して前に押し出す。
一瞬驚いた顔をした少年だったが、すぐに眉毛を八の字にして杖を胸の前でぎゅっと抱く。
さらにいかにもおどおどといった感じで、見様によっては少女と見間違われても仕方のない線の細さ。
気の弱い美少年のステレオタイプと言ったところだろうか。
「え、あ、えっと…あの…えっと…はじめ…まして、カルン…で…す…」
だんだん声が小さくなっていってしまう。
ついには顔を伏せ、消え入りそうな声で自己紹介をしてきた。
「んむ。ワシの事はすでに聞いとると思うがセルカじゃ!」
両手を腰に当てドヤ顔気味で胸を張りそう答える。
「お前はセルカを見習って、もっと堂々とすりゃいいんだよ。それだけの実力はあるんだからな!」
アレックスがカルンの背中をバンバンと叩く。
そのたびにカルンは「あうっ」とか喘いでいる。
「見たところサンドラの代わりに入れたようじゃが、腕は確かなのか?」
「こいつは代わりっていうか、お前が旅に出て少ししてから入れてやってな?はじめはちょっと鍛える程度の積もりだったんだが、お前さんほどでは無いにしても、かなり筋が良くてな。そのまま一緒に行動するようになったんだよ。腕は確かなんだが、コレだからなぁ…」
「アレックスが言うなら腕は問題なかろうが、たしかにコレではのぉ」
当のカルンはすでにアレックスの背に隠れるように移動してしまっている。
たしかにこれでは同じ年齢のパーティだと、すぐ虐められてしまうのではないかと思ってしまう。
「ところでカルンや、おぬしいくつじゃ?」
「えっ!えっと…十六歳です」
突然話しかけられてビクッとしたが律儀に答えてくれるあたり悪い性格ではないのだろう。
「んむ、そうでなくハンターの等級じゃ」
「あ、四か月ほど前に三等級になりました」
確かに聞き方も悪かったが、思い違いをしたのが恥ずかしいのか赤くなって顔を伏せてしまった。
「ほう、これはこれで」なんてニヤニヤしていると、溜息とともにアレックスが訊ねてくる。
「ところで、セルカはこれからどうするつもりなんだ?また街巡りでもするのか?」
「いや、ワシはこれから火のダンジョンに向かう腹積もりじゃ」
それを聞き、アレックスは「ふむ」と一言顎に手をあて考え事をし始める。
「なぁ、他に一緒に行くやつが居たら別にいいんだが、俺たちも一緒に行っていいか?」
「ん?それは構わぬよ。むしろ願ったりかなったりといったところじゃ。元々は一人でも向かうつもりだったしの」
「いやいや、一人はさすがに無謀だっ…と言うところなんだろうが、お前ならさほど無謀でもない気がしてきたわ」
「そうじゃろうそうじゃろう」
アレックスの言葉に同意するように頷くジョーンズとインディとは対照的に、
心底びっくりした顔でアレックスとワシの顔を交互に見ているカルン。
「アレックスさん、十五にならないとダンジョンは行けないんじゃ?」
確かに見た目は十二の時からなんら変わってないから、心配にもなるのだろう。
「あぁ、セルカは今年で十五のはずだぞ。しかもすでに三等級だ」
「ふっふっふ。アレックスや、ちとそれは違うぞ。ワシは二等級じゃ!」
そういって左手は腰に、右手は二等級の証である金のカードを前に突き出して胸を張る。
「なん…だと…」
今度はアレックスが心底びっくりした顔でカードとワシの顔を交互に見る。
「いつの間に二等級に…」
「ひと月ほど前にこの街に帰ってきた後にの、ギルド長に推薦をもらったんじゃ。世界樹の街からは先ほど帰ってきたばかりなのじゃよ」
「あぁ、そういえば…鉱山発見の功績とほぼ単独撃破といっていい戦功があったな…」
「そういうことじゃ、して出発はいつにするかの?」
「あーそうだな。とりあえず今日は何するにも遅いし、また明日決めよう。宿はいつものところか?」
すでに日も落ち始めているし、準備などは明日以降にして、アレックスらと合流し宿へと向かうのだった。
名前付きの新キャラ登場!
火のダンジョンいったいどんなダンジョンなんだ…。
先日より1手間からの句読点や言い回し等を改稿しています。
読みやすくなってればよいのですが。




