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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで皇国へ
390/3471

368手間

 しとしとと降り続く雨が壁面を伝い、洞窟の天井からぴちゃぴちゃと垂れ入り口を濡らしている。

 ふぅと吐き出す息は白く、気温が低いことを示している。暑い時期に入ったとはいえ、雨に濡れた洞窟の中はこれほどまでなのか。

 しかしワシにはこの程度の気温差は些事とも思わぬことだが、傍らに寝転がっているカルンには辛いだろう。


「ふぅ…ワシとしたことが……」


 もう一度白い息を吐き、カルンを起こさぬよう膝に乗せた頭を優しく撫でる。

 幸い食料も薬も何もかも腕輪の中に馬鹿みたいに残っている。雨が降り止み救助が来るまで十分すぎる程に。

 火も水も幾らでもワシが生み出せる、この状況での最悪は避けられている。問題はカルンの体調、こればっかりはワシにはどうしようもない。


「こういう時に回復魔法などが無いのは歯がゆいのぉ…いや、そもワシのせいじゃな」


 慢心、一言で片づけてしまえばそれだ。

 ワシであればギリギリの局面でも傍にさえいれば何恐れるものかと…。

 蓋を開けてみればこの体たらく、死んでないだけまだマシだろうと思うがこれ以上油断はできない。


「ワシであればもっと早く手を差し伸べれたじゃろうに、そもそんな要因すら無かったろうに……すまんのぉ…」


 討伐の最中、カルンが小角鬼(ゴブリン)に崖下へと突き落とされた。

 小角鬼(ゴブリン)にとっては、死なば諸共の攻撃だったかもしれない。

 だがワシはそれを見逃した。カルンならば捌けるだろうと、受け止めることが出来るだろうと。

 しかし実際はどうだ、振り始めた雨にぬかるんだ足下のせいで踏ん張りが利かず、小角鬼(ゴブリン)の目論見通り共に崖下へと消えて行った。

 すぐさまワシもそれを追う様に崖下に飛び降りたが、たどり着いた頃にはすでにカルンは崖下へとたどり着いていた。

 幸い崖は背の高い木よりも少し高いくらいで朽ちた落ち葉がクッションとなって最悪の事態は免れたが、小角鬼(ゴブリン)が纏わりついたせいだろうその角や武器で全身に傷を負っていた。

 八つ当たり気味にまだ息のあった小角鬼(ゴブリン)を崖の花として、崖上に残るスズシロらに救助の指示を出し近くにあった洞穴へとカルンを担いで潜り込んだ。


「化膿は…しておらんな、熱も…今のところは大丈夫じゃな」


 ギリリと奥歯を噛んでいると、カルンの苦しそうな呻きにハッと現実に引き戻され慌ててカルンの体調を確認するが、特に分かるような異常はなくほっと息を吐く。

 負っていた怪我はすべて消毒し包帯を巻き、復調させ治癒能力を上げる法術をかけたが内側まではどうすることもできない。

 使った薬はカカルニアのモノ、マナ耐性の低い者にとっては劇毒であろうが宝珠持ちのカルンであれば効果は十分、一先ず感染症などの心配は無いだろう。

 破れた服も着替えさせ火も起こしているので体温の低下による問題も回避している。あとはカルン自身の回復力に期待するほかない。


「まったく…これでは王国に戻った際に、首をはねられても文句は言えぬのぉ…」


 カルンは紛れも無い王太子、次期国王の命を危険に晒したのだ。いや晒しているのだ、その位の沙汰があっても仕方ない。


「女神さまも怒るかのぉ…」


 幾度ため息を吐いただろうか、いつの間にか雨は上がりスズシロらが連れてきた医師たちにカルンを預けワシはとぼとぼとその後を追うのだった…。



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