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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第二章 女神の願いでダンジョンへ
39/3463

38手間

今回から投稿時間を変えてみましたので前話を読んでない方はそちらからお願いします。

 ギルド本部で二等級への昇級手続きを済ませ、おばあちゃんのお世話になった翌日。夕方までは用事は無いので、先日教えてもらった観光名所を回ることにした。

 まず向かうのは、この街の水源を兼ねているという噴水のある広場。宿から近いということもあり迷わずに着くことができた。


「ほう、これがこの街名物の噴水かの」


 そういって見上げるのは五メートルほどの高さもある大理石の様なものでできたオベリスク。

 それの先端部分からこんこんと水が湧き出している様子やその水量、水の綺麗さに感嘆頻りである。

 オベリスクの表面には何やら文字が刻まれている様だが、水流のせいで読むことはできない。


「遺物という話じゃったから、どうせ女神文字で注意書きでも書かれとるんじゃろうの…」


 女神文字という神秘的な呼び方をされてる割に、今まで見たものが部屋の看板だったりその注意書きだったりで、書かれてる事に対する期待度が大幅に下がってしまっている。

 そんな事を考えていると、何となく視線を感じたので周りを見渡せば。

 おそらく街の住人であろう人たちから、お上りさんの子供を見守るかのような暖かい目で見られていた。

 そこで自分が噴水を見上げて感嘆の声を上げてたり、うんうんと一人頷いてる様を見られてたのかと思うと、急に恥ずかしくなりその場を足早に立ち去るのだった。


「とりあえず、教会に向かう途中に他のオススメに向かうかの」


 恥ずかしさをごまかすかのようにひとりごちれば、道中のおすすめされたお店に立ち寄っていく。

 お薦めされたのはあの店の何が美味しいとか、あの店の野菜は質がいい、どのお店のお肉は安いとか。

 後半のそれは地元民向けじゃなかろうかと思いつつも、帰りの食料を用意しとかねばならぬし、良く考えればありがたいのぅと立ち寄ることにした。


「そこそこ、早く出たはずなのじゃが結局昼を過ぎてしもうた」


 教会を眺めつつそう呟く。お勧めのお店を回って商品を吟味していたら、いつの間にかお昼になっていた。

 昼なのでお薦めのレストランで食事をしていたら、教会に着いたのは七刻あたりになってからだった。

 そうしてたどり着いた教会だったが、宿の女将さんが絶対に何があってもここに行ったほうが良いという言葉に、なるほどと思わず唸るほどの光景が広がっていた。


 教会の庭には視界の邪魔にならない程度に木が植えられ、教会は町の最北端でありこの街には城壁が存在しないため、教会より先は世界樹まで広がる大草原。

 十字架の有無程度で、それ以外は前世の教会とあまり大差なく、その北側にはサン・マルコの鐘楼を二回りほど小さくしたかの様な鐘楼がくっついていた。


「おぉ…これは何とも筆舌に尽くしがたい絶景じゃの。かめらがあれば写真を撮りまくっとるところじゃ」


 たしか鐘楼は一般公開されていて、その上から見える光景もすごいと言われていたのを思い出し、教会の庭に足を一歩踏み出して。


「そう言えばワシは教会の信者では無いが、入ってもよいのじゃろうか?」


 そこまで言って、もし追い返されるならそこで帰ればよいかとまた教会へ足を向けるのだった。

 教会入口の扉は解放されており中を覗けば、教会の内装と言われて真っ先に思い浮かぶような長椅子が何列も続いた先に祭壇がある、といった感じだった。


「十字架や像は無いが…まぁご神体である世界樹がそこにあるんじゃ当然かの…」


 誰も居ない教会に足を踏み入れる。カツンカツンと足音だけが響く中、神官がここに立って説教をするのであろう、飾り気のない祭壇の前までくる。


「教会に何かご用ですかな?獣人のお嬢さん」


 祭壇を眺めていると急に横からかけられた声に「うひゃぁう」と情けない声を思わずあげてしまう。

 深呼吸一つ落ちつけて横を見れば、馬車で一緒に乗っていた神経質そうな神官ではない方、人の好さそうなニコニコ顔の神官が立っていた。


「ん…んむ、宿の女将からこの街に来たら、ここには来たほうが良いと言われたのでな。入口から見える風景はその言葉に違わぬ素晴らしい風景じゃった」


 そう言って教会と世界樹を一緒に見える景色を褒めればさらに笑みを深めて、満足そうに神官は頷くのだった。


「えぇ、えぇ。そうでしょうそうでしょう、あの景色は我々の自慢です。それで、どうでしょう?本来は信者の方ぐらいしか来られないですが鐘楼からの景色を眺めてみては?」


「おぉ?信者でないワシが登ってみてもよいのかえ?」


「大丈夫ですよ、元々誰にでも開いている場所ですから。それにしても珍しいですね、獣人の方は風景などにはあまり関心を示されませんので」


「ま、ワシは変わり者じゃからの」と言えば彼は成程という風に頷いて、鐘楼へ案内をしてくれる。

 鐘楼の上部へと続く階段を神官の後ろに続いて登って行けば、すこし斜め上から見える大草原の遠くに広がる湖、そしてそこから流れる川が世界樹の袂に流れ込む景色が広がる。

 地上から見る印象とはまた違った景色に、横にいる神官がさらにニコニコするのにも気づかないほど感動して、あっちこっちを眺めていれば峠で眺めた時には気づかなかったものがある。

 世界樹と大草原の間、まるで堀のようにぽっかりと大地が抉れた中に、そこだけ抉れるのを免れたかのように、まるで島の様に残っている大地とその上の建築物が見える。


「のう、あそこになんぞ建物があるんじゃが、あれはなんなのじゃ?」


 そういって建物のある方を指さすと、少し驚いた風に神官が教えてくれる。


「ここからあれが見えるとは目がよいのですね、あそこはハイエルフの里です。彼の地だけは空に巻き上げられるのを免れたと聞いています。今は橋を架けてこちらと偶に交流をしていますね」


「あれがハイエルフの里のぉ…」


 その後も鐘楼から眺める街や草原の景色を一頻り堪能したのち、案内をしてくれた神官にお礼を言って教会を立ち去る。

 夕方にはまだ早いので、行きに寄り切れなかったお店に立ち寄りつつギルドへ向かう。

 ギルドに着くとそこにはやはり受付におばあちゃんが座っているだけだった。新たに二等級の証である金のギルドカードを受け取ると、それを眺め少し悪趣味だと思わないでもない。

 とりあえずこれでダンジョンに向かえると満足して立ち去ろうとすれば、またおばあちゃんにつかまりお風呂と夕飯をご馳走になるのだった。



  のんびり帰る。

ニア パッと帰る。

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