367手間
また一つ木立に反響する、全く以って哀愁を誘わない断末魔があがる。
雑巾で出来た鶏を捻ったかのような…いや、そちらの方が可愛げがあるかもしれない、そんな風に思わせるような声だ。
「うむうむ、侍中や防人の皆は流石に手慣れておるのぉ。それに比べてカルンや、もっとスパッっとやらぬか!」
「さ…さすがにそろそろ休憩したい……」
肩で息をしてはいるものの、剣を杖にもへたりこんでもいない。しかしカルンの腕はだらりと下がり、手に握る剣の切っ先は地面しか捉えておらずかなり疲れているのが分かる。
マナを剣に纏わせて戦うのは実戦では初めて、だからこそ余計に力んでしまい無駄に体力を消耗してしまったのだろうが……。
「ちと早すぎる気がするのぉ…」
「な、なにが?」
「んーいや、へばるのが早いと思っての」
「なんて言えばいいんだろう、こう力が吸われてくような感じで疲れちゃって……」
「あぁ、そうじゃそれじゃそれ。おぬしマナを集めておらんな?」
カルンの宝珠には周囲のマナを引き寄せる能力がある、それを併用すれば早々疲れることは無いのだが。
あっというような顔をするカルンはおそらく自分でも忘れてたのだろう、ワシも忘れていたので人のことはいえないが…。
「ふぅ、こんなもんでどう? ねえや」
「うーむ、まだおっかなびっくりといいった感じじゃなぁ。ふむ、どうせこの調子であればしばらく戦わねばならぬじゃろうし、こちらも鍛えてやるとするかのぉ」
カルンに向かってマナが集まっているのが分かる、だがその集めたマナを十全に扱いきれてはいない。
今までそれを止めたり、マナを出すことにしか気を向けてなかったから仕方ないことではあるが。
カルンが現在吸収できているマナは、呼吸によるモノと無意識に吸い込んでいるモノだけだ、ここに宝珠による吸収を加えねばならない。
「カルンや。しばし息を止め、口や鼻の代わりに体中で息をするのじゃ」
「そんな無茶な」
「おぬしはその無茶が出来るのじゃよ」
「わかったよ…」
休憩をとる間やらせてみたのだが、カルンは云わば吸い寄せることを止めることを意識するあまり吸収することまで忘れていた状態。
吸い寄せはともかくマナを吸収することは、宝珠持ちであれば元々出来ることを止めていただけなのですぐに上達していった。
「ふーむ、まだ薄く開けた口から吸う息くらいじゃが…これからも続ければ、息をせずとも息が出来るようになるじゃろうな」
「ぇぇ本当に?」
「うむ、本当じゃ。狩りをする際に文字通り息を潜めて隠れることが出来るから便利じゃぞ」
カルンが腕を組み「便利?」と首を傾げながら考えている。
ワシの言う狩りとは文字通りの獲物を狩る行為、対してカルンの中での狩りとは獲物を追い立てる遊びとしての行為。
これは王太子という立場上致し方ない事だろう、昔国王と一緒にその狩りに出かけたカルンが、帰ってきてからワシに楽しかったと語る姿は可愛かった…。
「ま、カルンには縁のない話じゃろうが…」
「確かに息を潜めてなんて狩りではしないけど、なんでねえやはそんなにニヤニヤしてるのさ」
「おっと、そんなに笑っておったかの」
ムニムニと両頬を手のひらで回すようにして笑みを消す仕草をする。
休憩も終わり順調に小角鬼を狩り続けることが出来た。
元々防人による討伐は昼までが基本なのだが、今回は順調すぎて昼前まで角や魔石が邪魔になり戻ることと相成った。
「ふむ、なかなかの収獲じゃな」
「えぇ、やはり巣分かれが近かったのでしょう」
角や魔石、倒す際にダメになったモノはその場で処分してしまったがそれでも両方が三十ちょっとほど集まった。
なにせ最初以外に遭った小角鬼の群れも八匹、九匹など森の中にしてはかなりの数であった。
「王国だとこれくらい普通のような…?」
「王国は開けた場所が多いからの、小角鬼などが繁殖しやすいのじゃ。それにおぬしが知っておる冒険者はワシだけじゃろう、自分で言うのも何じゃがあの戦果は普通ではないからの?」
「あぁ、なるほど…」
なるほどと納得されるのも、それはそれで釈然としないものがあるが仕方がない。
「何にせよ、毎日この戦果であれば巣にちょっかいを出す必要はないじゃろうな」
「え? 毎日来られるおつもりですか?」
「うむ、カルンの訓練も兼ねておるからのぉ。ワシも社でゴロゴロは飽きたのじゃ!」
スズシロを通じて防人にはそういう風に伝えて貰ったはずなのだが情報が行きわたっていなかったのだろうか、防人は心底驚いた顔をしている。
そしてその横ではカルンが心底げんなりした顔をしてるが、こっちには伝えていない。せいぜい今の内から女性に引っ張り回されることに慣れておけとニヤリとほくそ笑むのだった…。




