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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで皇国へ
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360手間

 朝焼けに青い空が滲む頃、ガッガッガッとくぐもったなまくら刀を気に叩き付けているかのような音が広場中に響き渡る。

 音の正体はタガヤが木を伐る音、正確には伐ろうと四苦八苦している…だが。

 当の彼女はまだまだ朝焼けの頃だというのに既に汗だくで、流れる汗は後から後から湧き出るのか何度も額を拭っている。


「どうじゃー? と聞くのは野暮かのぉ…」


「あぁ…神子様申し訳ございませぬ、歯が立たないとは正にこのことで…」


 ふぅふぅと肩で息をして、斧を杖の様に地面に突きそれに体重を預けるようにしていたタガヤが振り向きながらワシに答える。

 何ともいえぬ表情で彼女が再び顔を動かし見つめる先は、獣が爪を立てた程度にしか削れていない木の表面。


「朝からやってこれほどとは…よほどこの木は硬いのじゃな」


「えぇ、この木は元々硬いことで有名ですが、さらに育ったモノはこれほどまでに硬いとは…試した際にも感じましたが伐り倒すとなるとそれ以上でした」


「ふむ、もっと若い木ではダメなのかえ?」


「確かにそれも良いのですが、この木は若い…といっても家具に使うようなしっかりとした太さでも、かなり香りが強いのです」


「ほう…それではダメなのかえ?」


 香りが良いとは利点にはなっても問題にはあまりならない気がするのだが…。


「この木は木目も美しく、丈夫で虫も寄らず香りも良くこれで作った家具はとても人気なのですが、その香りが強すぎて御香などを使う際に邪魔をしてしまうのです」


「なるほどのぉ…香を焚く者には使い辛いという訳じゃな…」


「まさしくその通りで…」


 香を焚く余裕のない庶民には人気だが、それをよく使うような富裕層にはあまり重宝がられないという事だろうか…。


「ふむ…しかしそれでは女皇にやる物に使うには不向きなのではないかえ?」


「ですが年輪を重ねた場合はその香りが弱まりまして、これほどであれば香りも殆どなく木目も締まりまさしく極上のモノになるかと」


「ほほう、それは楽しみじゃの!」


「けれども、まずは伐り出さぬことには……」


 確かにいかに良い木材でも伐り出さねば何にもできない、しかしと切り口をチラリとみる。


「これでは日が沈んでも伐り出せそうには無いのぉ」


「まこと…お恥ずかしい限りです……」


 こればっかりは運が悪かったと思う他ない、硬いまでは分かってもそれ以上に歯が立たないとは予想もしてなかっただろう。

 とは言えこれ以上手をこまねいている訳にもいかない、彼女には悪いが日暮れどころか数日経っても今のままでは伐り出すことは不可能だ。


「なに、ここはアレじゃなワシが木こり役を変わるとしようかの。ところでタガヤや、木を伐るになんぞ資格やらは要るかの?」


「資格…ですか? いえ、その様なものは…。それよりも神子様にその様なことをさせる訳には」


「気にすることは無いのじゃ、それにワシ手ずから伐り出した木で作った物となれば、それだけで価値が上がろうというものじゃ」


「確かにその通りではございますが…どうやって伐るおつもりで?」


「なに簡単じゃ斬るだけじゃよ、という訳でちと離れておれ」


「はっ」


 タガヤが離れたのを確認すると、マナを纏わせた刀で居合の要領で木の根元を横一文字に斬りつける。

 マナを纏わせることで多少は斬りつける範囲が伸びるものの、ミスリルでは無い刀では斬撃を飛ばすような芸当は負荷がかかり過ぎて使えない、なので斬れた範囲はせいぜい幹の三分の二程度であろうか。


「ここまで斬れればあとは…!」


 刀を鞘に戻すと木の幹に両手を突いてそのまま力任せに押し倒す。

 するとバキバキと凄まじい音を立て、大木がなすすべも無く地面へと横たわり、その重さで下敷きになった枝葉が折れはじけ飛ぶ。


「こんなもんじゃの、あとは枝葉を払えば持って帰るだけじゃな」


「お…おぉ、まさか一刀両断されるとは…」


「いやいや、一太刀ではないからの。ほれここを見てみい」


 倒れた木の根元は三分の二ほどまでは磨いたかのような切り口だが、残り三分の一は文字通り無理矢理へし折ったせいでささくれ立っている。

 ここまでやったなら後処理もしてしまおうと、再び刀を抜いて余計な枝葉を取り除き幹の先端も切り落とし一本の巨大すぎる丸太にする。


「タガヤや、この枝は何かに使うかの?」


「いえ、その辺りはあまり木目も良くない上に香りも弱いですし、捨て置いても大丈夫です」


「ほうかえ」


 切り落とした枝葉を狐火で焼き払い、丸裸となった丸太に爪をたてるかのように指をめり込ませ、フッと息を吐きつつ丸太を頭の上へと持ち上げる。


「み…神子様…その…えーっと、重くは…無いので?」


「んー?この程度問題ないのじゃ。スズシロやー、木は伐ったことじゃしさっさと帰るとするのじゃ」


「はい……セルカ様」


「この程度……」


 焚き火などの後処理を終え天幕も回収し終わった若干呆れ顔なスズシロらを率い、ズシンズシンと音でもしそうな足取りで若干地面へと足跡をめり込ませつつ帰路へとつくのだった。

いつの間にかこのお話を書き始めてから、一周年が経っていました…。

これもひとえに、読んでくださっている皆様のお陰です。

これからも毎日更新を目標に頑張っていきますので、何卒よろしくお願いいたします。

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