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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで皇国へ
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358手間

 袈裟懸けの半身となった小角鬼(ゴブリン)の体が宙を舞い、蒼い炎に包まれながら地面にドサリと落ちる寸前に風塵の様にサラサラと消え去る。

 ぐるりと首を回しピクピクと耳を動かすが、一先ず見え聞こえる範囲に動く小角鬼(ゴブリン)の影はないようだ。

 チロチロと狐火を飛ばした際の蒼い残り火が揺らめく中、血を払うかのように刀を振って刀身に纏う炎を消してチンと澄んだ音をたて鞘に刀を収めたところでふと思い付き、残り火を派手に爆発させる。


「うーむ…恰好は良いがち実戦では使えんのぉ…」


 爆風で髪を靡かせ小角鬼(ゴブリン)がいなくなったからか、こちらに駆け寄ろうとしたスズシロたちが爆発に驚き小さく跳ねるの見てしまい、その姿から味方までも委縮させてしまいそうだと頭を振る。

 火薬など無いだろうし魔法と言っているが実際は法術相当の種火程度で爆発には縁が無いだろうし、何より耳の良い獣人には爆音はキツイ。

 事実スズシロまでが耳をペタンと情けなく畳み込み、こちらにビクビクと来ているのだから、どれほど心胆を寒からしめたのか想像に難くない。


「セ…セルカ様、今のは一体…。もしや小角鬼(ゴブリン)どもの魔法ですか?」


「いやいや、あれはワシのじゃ。隠れておる小角鬼(ゴブリン)が出てこんかと思うての」


 一割九分九厘くらいはそう思ったので嘘はない、残りは全部鞘に納める時に後ろで爆発あったら格好良くないかと思ったけれども。


「では神子様、小角鬼(ゴブリン)はもう居ないのですね!」


「うむ、統率を失っておる小角鬼(ゴブリン)どもが、あれほどの音に驚いて出てこぬという事はまず無いじゃろうしな」


「では! 早速ですが木を伐ってきます!」


 おもちゃを会計に出す子供かと思うほど弾んだ声で、今にも弾んだ足取りで木に向かいそうなタガヤの頭を帯から抜いた鞘でコツンと強めに叩く。


「ド阿呆、まずはさらわれた人がおらぬか確認じゃ。まだ腰を抜かして出てこれぬ小角鬼(ゴブリン)が居るかもしれんしのバラバラに行くのは拙いじゃろうし、おぬしらはアチラからワシらはこちらから見て回るとしようかの」


「分かりました神子様」


「うむ、では行こうかのスズシロや」


 まだ頭を抱えてしゃがみ込み唸り声しか出さないタガヤに代わり護衛の者が返答をして、タガヤの腕を掴んで立たせてすぐに歩かせている。

 出来ればお互いが離れた所から調べれれば良いのだが、万が一の安全を取ってお互い近いあばら家から中を覗いて確認する。

 小角鬼(ゴブリン)基準の大きさで、扉も無く隙間だらけ故に日差しが差し込みあばら家の中は明るいのでヒョイと覗き込むだけで確認できる。

 とは言っても百匹以上の小角鬼(ゴブリン)が居た巣だったのだ、それなりに数が多い全てのあばら家を確認し終わる頃には日も傾きかけ、野営の支度をしなければならない頃合いとなってしまった。


「うぅ…どの小屋も酷い状況と臭いでした…」


「まぁ、奴らに掃除をするなどという、殊勝な心掛けは無いじゃろうしのぉ…」


 未だにその臭いが鼻に残っているのか、鼻をつまみ鼻づまりの様な声でタガヤがぼやく。

 残念ながら生きている者はおらず、あったのは腐りかけのモノばかり…。


「致し方あるまい…一先ずはこれ以上の被害が出ぬことを喜ぼうではないかの?」


「そう…ですね」


 野営用の薪の分を確保した後、中のモノごとあばら家を焼き払ったワシは、雨除けの布で簡易的な天幕を張る準備をしているスズシロたちを横目に見ながら、タガヤと共にパチパチと爆ぜる焚き火の傍で火にあたっている。


「とりあえず今日の内は伐採はおあずけじゃな」


「そうですね、意外と音が響きますから下手に何かを呼び寄せたくないですし」


 もちろん普通の木であればたかが一本、それも周りに阻むものない場所であれば四半刻も掛からないであろう。

 しかし、ワシら御所望の大木は大人二人が手を回して届くかどうかといった幹回り、さらには締まった年輪のせいでかなり硬いとは試しに斧を入れたタガヤの弁。

 なので明日朝からやろうという事になったのだ、試しで剥がれ落ちた木片を手で弄びながらこの木で出来るであろう台座に思いをはせてニヤリとする。

 外側の木片故に中までは分からないが、紫檀に似た赤味を帯びた木肌に赤褐色の木目による縞模様が美しい。

 木片だけでこれなのだ、実際に職人が腕によりをかけて作った際はどうなるか想像もつかない。


「うーむ、ワシも端材で何か作ってもらおうかのぉ」


「流石に作るとしても女皇陛下の物の後になりますが…」


「ま、それは当然じゃろうな」


「えぇ、ですが今はそれよりも…」


「それよりもなんじゃ?」


 木片を焚き火へと放り込み一際大きな音を立てながら爆ぜる木片に少し驚きつつも、はてなんだろうと首を傾げる。


「ご飯はまだでしょうかね」


「まだ手は開かぬようじゃし、自分で用意すればよいのではないかえ?」


「実は私、料理はてんでダメでして…」


「ワシは出来るが…スズシロが許してくれんからのぉ、それに腕もあちらの方が良いからの」


「神子様手ずからの料理ですか…畏れ多くて喉を通りそうにありませんね…」


「スズシロも似たようなことを言った上に、その様な些事は私共にお任せくださいときたもんじゃ」


「料理などして尻尾に火がついては事ですから、仕方のないことかと…」


「ワシの尻尾、溶岩にも耐えるんじゃがのぉ……」


 実際に浸けた訳ではないので本当に焦げないかは分からないが、少なくとも竈の火程度では焦げ跡すら付かないだろう。

 今はそんな事よりもタガヤの腹の具合を心配したほうがいいだろう、耳も尻尾もへにょりと力なく垂れている。

 ワシは二、三日食べなくても平気なせいか、おなかすいたという感覚がとんと思い出せない。

 さてどんなものだったかとうんうん唸るワシの横で腹をすかせたタガヤは、ますますしんなりとなっている。

 そんなタガヤは少し周辺の見回りに行った護衛たちが帰ってくる頃には、糸の切れた操り人形の様にぐでんとなっていたのだった…。

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[気になる点] 脱字:ちと 「うーむ…恰好は良いがち実戦では使えんのぉ…」
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