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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第二章 女神の願いでダンジョンへ
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37手間

 世界樹の街へと着いた翌日、宿で朝食を取ったあと早速とばかりにギルドへと足早に向かう。何故そんなに急いでいるかというと、明後日にはカカルニア行きの馬車が出てしまうからだ。

 ギルドの手続き如何では今日明日しか、最悪の場合は明日しか観光する暇がなくなってしまう。せっかく半月近くかけてこっちに来たのだから、なるべく廻っておきたい。

 先日、宿屋で夕食を食べたときに宿の女将さんから聞いた観光名所を出来れば見て回りたい。細々したものもあるが、ここは絶対に行くべきと教えてもらったところは二つ。

 街の北側もっとも世界樹に近いところに建っている教会の鐘楼、そこの一般開放された場所。もう一つは街の中央にある、遺物を利用した豊富なマナを水へと変換しているこの街の水源兼噴水。


 足早に歩いたおかげでギルド本部へは早くにたどり着いた。外観はギルド支部を少し豪華にしたかな?くらいの、有体に言えば大して変わらない見た目だった。

 扉を開けると、朝早いからか場所柄かハンターは一人もおらず、受付には細目で縁側でお茶を啜ってるのが実に似合いそうなおばあちゃんが座っていた。


「二等級への推薦状をもってきたのじゃが。渡すのはおばあちゃんでよいのかの?」


「はい、いらっしゃい。お嬢ちゃんはギルド本部に用かい?」とおばあちゃんが孫をかわいがるかの様な声音で問いかけてきたので、推薦状を取り出して訊ねてみた。


「いんや、そのままでいいよ。それじゃちょっと私についておいで。」


 そう言って椅子を降りたのか、おばあちゃんが受付カウンターに完全に隠れてしまう。しばらくするとカウンターの横の戸を開けて、腰が九十度に曲がり杖を突いたおばあちゃんが出てくる。

「こっちだよ。」と歩くおばあちゃんの姿についつい左側に立ち右手を腰に軽く当て、左手でおばあちゃんの左手を握って支えるようにして歩いてしまう。


「おやおや、若いにしては気の利く子だね。ありがとうね。」


「ん、んむ。この程度の事で礼などいらんのじゃ。」


「ますますいい子ねぇ。この程度でも老体にはありがたいのよ。」


 お礼を言ってくるその顔に、もう顔を思い出すことも叶わない祖父母にもこうやってあげたなと思い出し、少ししんみりとしてしまう。


「あらあら、何を思い出したのか分からないけれど、そんな悲しそうな顔をしないで。折角のかわいいお顔が台無しよ。」


「む、そんなに顔に出とったかの。」


 そういって左手はおばあちゃんの手を握っているので自由になる右手で顔を少しいじってしまう。


「ふふふ、お顔はそこまで悲しそうではないけれど、そのかわいらしいお耳がね。」


 くすりと笑うので今度は手を頭に当てると、なるほど耳がぺたりと力なく倒れていた。「むむむ。」と唸りシャキっとしようと思いなおせば、今度は耳がピシリと立ってるのが手に取るようにわかる。

 その様子にまたくすりと笑うと、「さぁさぁ、ここよ扉を開けてくれるかしら?」と言われたので手を放し、扉を押して開ける。

 先に中に入る形になったので少し周りを見渡してみるも、まだ誰も来ていないようだった。そのまま扉を抑えたまま道を開ければ、ゆっくりとおばあちゃんが入ってくる。

 おばあちゃんが中に入り、扉を閉める前に顔を出し外を見回しても誰も来る気配もない。その様子にしばらく待たされるのかな?と思いつつ扉を閉める。

 扉を閉め部屋に視線を戻すと「よっこいしょ。」とおばあちゃんが手近な椅子に座り「あなたも座りなさい。」と促されたので、適当に座ることにする。


「それじゃ、推薦状を見せてもらいましょうか。」


 そういってきたので、再度推薦状を取り出しおばあちゃんに手渡す。真剣な顔で推薦状を読むおばあちゃんを眺めつつ暫く待っていると、読み終わったのか顔をあげ推薦状を懐にしまい込み話し出す。


「はい、大丈夫ね。カードを二等級のものにするから預かるけど大丈夫かしら?明日にはできるから取りにいらっしゃい。」


「ん?んん?やけにあっさりとと言うか…おばあちゃんが決めて大丈夫なのかえ?」


「ふふふ、大丈夫よ。だって私がここの長だもの。」


 そのとんでも発言にびっくりしているといたずら大成功とばかりにニッコリとおばあちゃん、いやギルド長が笑う。


「そういう顔が見たくて毎回やってるのよね。あなたみたいに優しくしてくれた人は久しぶりよ、大抵は我関せずか、呆れたり侮ったりしてくるもの。」


「んむ…こう言ってはなんじゃが、ギルド長がそのような事をして大丈夫なのかえ?怒って襲い掛かってくる奴もおるんではないのか?」


「その点は大丈夫よ。そういう人たちの為に、この子がいるもの。」


 そういってちらりとギルド長が横を見ると、いつの間にそこにいたのか、こっちは背筋がピンと伸びた老紳士が立っていた。ワシが老紳士を見てまた驚くと満足そうにギルド長がこちらに向き直る。


「それと、おばあちゃんって呼んでほしいわ。その方が孫ができたみたいでうれしいもの。」


 ニコニコとそういってお願いをしてくる。


「う、うむ。それでおばあちゃん、このおじいちゃんは誰なのじゃ?」


「この子が副ギルド長よ、私の代わりに色々と動いてくれて助かってるのよ。」


 おばあちゃんが老紳士を手で示し紹介すれば、それまで黙って立っていた老紳士が口を開き、


「はじめまして、私がここの副ギルド長をしているケインと申します。私のことはどうぞケインとお呼びください。」


 テノールの実に渋い声でどこぞの執事かと思うほどの丁寧で腰の低い対応をしてくる。ケインは「では、カードをお預かりします。」とワシからカードを受け取ると、失礼しますと一礼し部屋から退出していった。


「それじゃ、セルカちゃんはおばあちゃんの話に付き合ってくれないかしら。二や一の子たちはあっちこっちふらふらしてて立ち寄らないし、職員は各地を飛び回ってて忙しいし、あの子はあの子であんなだし。ね?」


 二等級や一等級の誰もが憧れるようなハンター達をまるで放蕩息子の様に言うおばあちゃんに苦笑いしつつも、やりたいことと言っても観光ぐらいでそれは明日にでも出来るしと二つ返事で了承する。

 結局おばあちゃんの話は夕方まで続いてしまった。話は多岐にわたり非常に楽しかったが…お昼と夕食をごちそうになり、お風呂までいただいてしまった。

 夕食の後これ以上厄介になるのはまずいと、宿に帰ろうとしたがお風呂の魅力には勝てなかった…スズリはお湯に浸かるのを嫌がり激しく逃げ回ってしまったが、久々の…この異世界に転生してからは初めてのお風呂は非常に気持ちよかった。

 本当におばあちゃんの家に遊びにきた孫状態になってしまって、結局宿に戻れたのは日もすっかり落ちきってからだった。






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