353手間
畳の上に座るワシの前に平伏するは、支子色の髪の毛に小舟のような形状の大きな耳に猫のような尻尾。ヒューマンであれば耳がある位置の少し下あたりで乱雑に切り揃えられたかなり短い髪の毛の女性。
「このタガヤ、仰せによりただいま罷り越しました」
「うむ、よく来たの。タガヤや楽にするがよい」
「はっ」
顔を上げて目に入るのは、キリリとした眉にいかにも偏屈そうに真一文字に結ばれた口、切れ長の目に収まるミカンのようにまんまるな柑子色の瞳。
「これ以上堅苦しい挨拶をするのも何じゃし、早速本題にはいるとするかの。既に聞き及んでおるかもしれぬがコレを載せるに相応しい台座を作って欲しくての」
「それ…ですか、初めて見ましたが何なのでしょうか?」
「これはの、おぬしもこの街に居ったのであれば見たであろう? あの巨人の核じゃ」
「何とあれの…ですか、アレは遠目から見ても燃えるように赤く光っておりましたが、木を台座にして大丈夫なのでしょうか?」
「うむ、これこの通り熱は発しておらぬからの」
ワシの脇に無造作に置いている赤晶石をペチペチと叩いて、問題ないとアピールする。
しかし、何といえばいいのだろうか、品定めするように赤晶石を睨みつけるタガヤの顔は、複雑そうに見かたによっては嫌そうに歪められている。
「女皇に渡す予定じゃからのぉ、金に糸目は付けぬ。おぬしの作品は家一軒買えるほど聞き及んでおるからの、まずこれは手付金じゃ」
左袖に手を突っ込みそこから取り出した風に腕輪から王国金貨五枚を取り出し畳の上に置き、スッっとタガヤの方に押し出す。
「あっ! いえ神子様からお金を頂くようなことは…」
「なにワシからの依頼じゃから当然のことじゃ。街に戻ってきてすぐに来てもらったようじゃし、それの詫びも含めてじゃからの」
「しかし…」
「おぬしの腕を買うのじゃ安くは無かろう。それにワシとて対価を払わねば、おぬしに今まで金を払ってきた者に申し訳が立たぬであろう?」
「神子様のお考え感じ入るばかり…ですが」
「ですが? まだ何かあるのかえ?」
今度は申し訳なさそうに顔をクシャリと変える、そんな顔を見て偏屈そうな見た目の割に意外と表情豊かだな、なんてズレた感想が出てくる。
「実は木が無いのです。あぁ、もちろん木材の在庫はございますが、その核の台座に使えそうなモノが無いのです」
「ふむ、急ぐわけでも無しワシは気が長いからの、仕入れを待つのもやぶさかではないのじゃが?」
「木は私自ら仕入れ…といいますよりも直接切り出して持ち帰っているのです、この半月ほど街におりませんでしたのも」
「なるほど、ではゆるりと休んで英気を養ってから仕入れを頼むとするかの」
「あ、それなのですが実は良い木の目星が付いているのです、本来であればそれも伐って持って帰るはずでした……」
よほどその目星を付けた木が持ち帰れなかったのが悔しかったのだろう、今にも血が滲みそうなほどに下唇を噛みしめている。
「あー、何があったのじゃ?」
「前々から大きくなれば良い木材がとれるだろうと思っていた木が大きくなる頃合いだったので見に行ったのですが、その木のすぐ近くに小角鬼の巣があったのです。もちろん私も多少は戦えますし戦える者を同行させていましたが、流石に巣は危険なので泣く泣く…」
「ふむ…その巣は街の近くなのかえ?」
「街道から外れて往復で三日ほどの場所でしょうか。小角鬼を警戒しつつ森の中の道中でしたので、実際はもっと近いかもしれません」
「ふむ…往復三日……のぉ」
街道から一日半ほどの距離となると微妙だ。放っておけるほど遠くも無く、危険ではあるが今すぐ兵を送ろうというほど近いわけでもない。
いま防人は街道の警備に人数が割かれている。長雨に地震、避難騒ぎと続いた厄介ごと、そのせいで滞っていた物流を取り戻すように、頻繁に商人が街道を行き来しているためだ。
この街で今遊んでいる兵力は非番や休暇中の防人、しかし非番や休暇中の者を引っ張り出すほどワシは外道でも畜生でもクズでもない、なれば後はワシの身辺警護をしている侍中たち。
もちろん侍中である彼女らは防人より強いであろうが、ワシの警護に問題がない程度の人数を送り出したところで、巣の規模が分からない以上危険である。
「んむ、ではその巣を潰してやろうではないか。街道を行く者も安全になるしの!」
「セルカ様、お言葉ではございますが現在巣を潰せるほどの……」
「何を言うておるスズシロ、巣を易々と潰せるほどの戦力が遊んでおるであろう?」
「ま…まさか…」
「そう! ワシ自ら巣を潰してやろうではないか!! 幾ら群れようと小角鬼など物の数ではないのじゃ!」
立ち上がり得意げに胸をそらすワシにタガヤはポカンと口を開き、スズシロとナギは顔を押さえ天を仰ぐのだった……。




