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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで皇国へ
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348手間

 巨人に空いた風穴から青空が見える。

 巨体故に全てを吹き飛ばすまでには至らないが、人であれば心臓に肺…生きるに必要な臓器を消し去っている一撃。

 魔物であっても、いや魔物だからこそワシの魔手、マナを喰い破壊する力が乗った一撃はすべからく致命傷となる。

 厳密には魔手と飛ばしたマナの力は違うのだが、魔物にとっては致命的という性質は変わらない。


「ふふん、如何な巨体であろうとマナで出来ている以上、ワシにとっては虚仮威(こけおど)しよ!」


 驚いて身動きが取れない者のように微動だにしない巨人、しかし魔物であればもう塵となっていてもおかしく無い。

 そんな姿を不審に思い顔をしかめると、人でいえば心臓から臍下まで空いた大穴に、まるで水槽に注がれる水のように下から湧き出た溶岩が大穴を埋めていく。


「ぬぅ…再生とな…なんとも厄介じゃのぉ」


 大穴をすっかり塞いでしまうとゆっくりと動き出した巨人は、再びワシを捕まえようと両腕を次々に繰り出してきた。

 しかも今度は首元からのレーザーもしっかり撃ってきている、幸い腕もレーザーも狙いが甘いために回避自体は容易ではあるが。


「うぅむ、さてどうしたものかのぉ」


 大抵魔物というのは心臓の位置に核たる魔石が存在している、偶に別の場所にあるモノもいるがこの巨人もそれだろう。

 だがどれだけ変な場所にあろうとも魔石というのは相手が魔物であれば、ワシからしたらどこにあるのかよく分かる。

 暗闇の中で光るものを見つけるのが容易なように、しかしこいつはそうではない。

 まるで水の中に透明な水晶を入れたかのように、魔石とソレ以外とが見分けがつかないのだ。


「あるとすれば首元じゃろうな」


 腕とレーザーを掻い潜りながら首元へ斬撃を飛ばしてみるが、腕に防がれて首元へは届かない。

 防いだ腕は消し飛ぶものの、見えない容器に注がれる色水の如く瞬時に再生してワシへの攻撃を再開してしまう。


「ぬぅ……振りかぶりが甘いと、よもやここまで威力が下がるとはのぉ…」


 レーザーがあるかぎり跳ぶのは危険、縮地を使おうにも子狐に一体どれほどの負担がかかるか分からいから使えない。

 さらに再生能力があるからか、巨人はレーザーで自分の腕を撃ち抜こうがお構いなし、腕も腕でお互いをぶつけようが止まりもしない。

 振り切るほど速く動くにしても、それも子狐への負荷になるので余裕をもってゆっくりと避ける他ない。


「一度離れて溜めを作る…いや、それは相手も同じことじゃな」


 何をしてくるか分からない以上、被害を森へと街へと広げないためにも、近くのワシだけを狙うことに集中してもらいたい。

 ポンチョの効果があり巨人の攻撃からも距離的余裕を保っているとはいえここは噴火口の近くの灼熱地獄、子狐が脱水症状にならないよう口元へ左手を持っていって法術で水をあげながら隙を窺う。


「水…そうじゃ、うむそうじゃな!」


 迫る溶岩の腕に法術で生み出した水を、すれ違いざまに巨人へかけてやれば一瞬で蒸発し、凄まじいまでの水蒸気が発生してその巨体を覆い隠す。

 水蒸気の雲を切り裂くようにして現れた腕は、狙い通りに所々冷え硬化して動かすたびにボロボロと崩れている。


「うーむ、効果は無いようじゃな…それどころか下手に水をかけると爆発しそうじゃのぉ」


 煌々と丹色と金色に輝く巨人は水蒸気の雲に覆われてもよく見える。

 しかし、小手調べと水の量を減らしていたから水蒸気の煙幕になるだけで済んだものの、これがもし巨人をすっぽり覆うほどの水であったならば…。


「うむ、ドカンといきそうじゃな…」


 考察している間にも冷え固まった部分は完全に崩れ去り、また新たな溶岩がその部分を再生してしまっていた。

 巨人の攻撃を避け一撃を叩き込むも即座に再生、それをどれだけ繰り返しただろうかワシと巨人の戦いは拮抗、もちろん再生されてるとはいえハンデ有りで手傷を負わせているワシが圧倒的に有利だが。

 しかし、状況はワシの方が不利…ワシの体力は無尽蔵であろうとも子狐はそうはいかない、すでにきゅうきゅうと苦しそうな鳴き声をあげている。


「ぐぬぬぬ、よもやこのワシが攻めあぐねる日が来ようとは…」


 歯噛みして巨人を睨みつけるが、変わらず巨人は淡々と攻撃の手を緩めない。

 退くのは容易いがこいつが追いかけてこないとも限らない、さてどうしたものかと巨人の腕をヒラリと後ろへ避けた瞬間、まるでその腕へと飛び込むかのように胸の谷間から子狐が飛び出した。

 このまま腕に飛び込んでしまえば、骨どころか灰すら残らず消えてしまうがだがしかし、そこは所詮子狐の跳躍力、ワシの反応速度を以てすれば腕が届く範囲で捕まえるなど容易いこと。


「何をしてるのじゃおぬしは! 流石のワシも肝が冷えたのじゃ」


 容易く捕まえはしたものの、背骨が氷にでもなったかのようにゾッとしたのも事実、思わず小言をいってしまったがそれがいけなかった。

 ハッとして上を向けば目前に迫る白く輝くレーザー、子狐を持った状態では避けるにはすでに遅すぎる。

 左手でギュっと胸に抱きしゃがみ込んで上半身で覆いかぶさるように子狐を抱え込むと、魔手をレーザーから全身を覆い隠す様に掲げたその直後、白い輝きの奔流にワシらは呑み込まれるのだった…。

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