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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで皇国へ
357/3466

337手間

 揺れる馬車の中でひたすら授業まがいのことをしたからか、カルンが若干ゲッソリしはじめたころ漸く社のある街へ戻ってきた。

 ひたすら兵站の重要性を説いていたので、カルンはゲンナリしスズシロは感心しながらも気の毒そうな目をカルンに向けていた。

 これで腕輪のことから目を逸らしてくれればありがたいのだが…スズシロは兎も角、カルンは完全に頭から抜け落ちてはいるだろう。


「ね、ねえや…兵站の重要性はわかったけど…そんな四六時中戦ってるわけじゃないんだし……のんびり運んでも良いんじゃ」


「重要性を一切わかっておらんではないか、腹が減っては戦はできぬ。昔の人はよういうたもんじゃ…腹が減っては士気が上がらぬ、士気は戦に限らず集団においては非常に重要じゃ。カルン、おぬしは王になるのじゃから、この士気というのを理解しておかねばならぬ」


「士気…士気ねぇ…」


「難しく考える必要はないのじゃ。戦であれば腹いっぱい…いや腹いっぱいは不味いの、満足できるまで食べれれば一先ず士気は下がらぬ。平時であれば信賞必罰じゃな」


「しんしょひつばつ?」


「しんしょうひつばつ、じゃ。賞すべき者には必ず賞を与え、罪過ある者は必ず罰するということじゃな。賞罪過たず行えば自ずと人は付いてくるのじゃ!」


「う…うーん……?」


「言い回しが難しかったかのぉ…? 要するにじゃ、頑張った者に褒美をあげれば、貰ったものだけでなく他の者も頑張ろうとするじゃろ? 逆に罪を犯した者を厳格に取り締まれば、罪を犯そうとする者は減るじゃろう?」


「なるほど…」


「流石セルカ様、戦だけに限らず金言至言の数々、王の器をもお持ちとは!」


「王なんぞ、ワシはやれといわれてもお断りじゃがのぉ」


 立身出世に欲は無し、偉くなったところで忙しくなるだけで、下に全部任せて自分はのんびりなんて夢のまた夢。

 カルンには悪いが、王国に戻ってもワシは政に関わる気はさらさらない。カルンが王になったのを見届けたら気ままなハンターにでも戻るつもりだ。


「確かに…セルカ様が王になられたらあとに続く者が、己の未熟さに恥じ入りそうです」


「うーむ…スズシロの中でワシは何になっておるのじゃろうか…」


 最近ますますスズシロのヨイショがひどくなっている気がする。もうヨイショというより崇拝に近い。

 侍中の頭がこれでいいのだろうか…いや存外ワシから離れたら優秀なのかもしれない。事実侍中らから慕われているようだし。


「まぁそれはよいとして街までは後どれ程かの?」


「はい、そろそろ牛車に乗り換えて頂くことになるかと。王太子様は社から離れた文官の為のお屋敷に向かいますので、セルカ様とは別の牛車に」


「ふむ、わかったのじゃ」


 スズシロの言葉通りさして間を開けること無く街から少し離れた場所で馬車が止まり、そこで牛車へと乗り換えて社へと向かう。


「しかし、わざわざ最初から別れずとも途中までカルンと一緒でも良かったのではないかえ?」


「出来ればそうさせていただきたかったのですが、文官の屋敷は社のある場所とは正反対といってもいい場所にありますので」


「ほう…遠いのかえ?」


「そうですね、社は街の中心で屋敷は街の端にあります。職人街の更に外れにありますので、歩くとなるとかなりの距離にも」


 離れた場所にあるのなら仕方がない、それよりも職人街とは…何とも心惹かれる言葉ではないか。


「スズシロやその職人街とはなんぞや?」


「言葉通り鍛冶や機織りなどの職人の工房と住居がある場所です、鎚などの音がやかましいですから…」


「なるほどのぉ……うん?」


「どうかされましたか?」


 職人街、いったいどこの方角にあるのだろうかと外を覗いて、街の光景の違和感に首をかしげる。


「なんと言えばよいのかのぉ…なんぞ足りぬというか街の様子がおかしいというか…」


「街の様子が…ですか」


 スズシロもワシ同様に外を覗いて首をかしげる。


「おぉ、わかったのじゃ! 湯気がないのじゃ!」


「あぁ、言われてみれば確かに、湯気も少なく温泉の匂いもあまりしませんね」


「ふーむ、そうと分かると街の者も、なんぞ不安そうにしているように見えてきたのぉ」


 気の所為と言われればそれまでかもしれないが、なんとなく湯気とともに活気も少なくなっているような気もしてくる。


「ま、温泉は自然のモノじゃしのぉ。少なくなるような事もあるじゃろうて」


 人に自然の機微が悟れるわけでもなし、そういう時もあるさとのんびり構えていたのだが。

 社で出迎えてくれたナギの不安そうな、長らくこの地に居たであろう者の顔色の悪さに、果たして本当に大丈夫なのだろうかと少し不安になるのであった…。

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