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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで皇国へ
355/3467

335手間

 ぽかぽかと陽気差し込む縁側に、座布団を敷いてのお昼寝のなんと贅沢なことか。

 そうなるように設計したのか偶然かは知らないが、ワシが使っている部屋の前の縁側は、お昼時に丁度よい日差しの入り方になる。

 ここは屋敷の主が使う部屋だというので、この屋敷を建てさせた者はよほど日向ぼっこが好きだったのだろう。


「セルカ様、お寛ぎのところ失礼します」


「んむぅ…スズシロと……ウチギかえ、なんぞあったのかえ?」


 そんな軒先の下で寝ていると、ワシを起こす声に目を覚まし「こぁぁ」と口を両手で隠して欠伸をしてから返事をする。

 目の下をこすりながら体を起こし呼んだ声に目を向ければ、そこには仲良くニコニコと、並んで正座をしているスズシロとウチギの姿。


「お客人が来られましたので」


「おぉ、そうかえそれでは着替えてから向かうのじゃ」


「かしこまりました、それでは私はお客人の相手をしていますので」


「私はセルカ様のお着替えをお手伝いさせていただきます」


「うむ」


 ウチギが丁寧に一礼してから客の相手をしに、そしてスズシロが昼寝用の簡単な着物から着替えるワシの手伝いを。

 部屋着は薄いながらもシワになりにくく動きやすくて良いのだが、やはりそのまま客人の前に出る訳にはいかない。

 薄桜の生地に淡紅藤で花の刺繍が施された着物に着替え終わると、スズシロの案内で客人が通されている間へと向かう。


「さて客人またせたの」


「久しぶりだね、ねえや」


「ん? おぉ、なんじゃカルンじゃったか…なれば着替えんでも良かったかのぉ……」


「その服もよく似合ってるよ」


「そうじゃろう、そうじゃろう」


「王太子様、それは当然のことでございます」


 ワシがふんぞり返るのは兎も角、何故か得意満面なスズシロには思わずカルンも苦笑いが漏れる。


「にしてもおぬしが来るのであれば、わざわざ客人などと言わずに、普通に来ればよかったものを」


「それに関しましては、例の騒動のことも御座いましたので。どなたが来られるか申し上げれず……」


 カルンであればそれこそ先触れ無しでもワシとしては問題なかったが、ウチギが言うにはアボウの騒動の為に用心した結果だとのこと。


「それならば仕方ないの。しかし…カルンがこっちに来るとは何ぞあったのかえ?」


「それにつきましては私が。お客人がこちらに到着しましたら、開封するように言付けられておりました封書に書かれておりましたので」


「ふむ、それにはなんと?」


 ウチギが懐から取り出した封書。すでに封が切られていることから既に確認しているのであるそれの内容を彼女が読み上げる。


「女皇陛下から、王太子様をフガクの街の文官として配属するように、とのことです。もちろん正式な任官ではなく形式上ですが」


 フガクの街とは山の麓にある社の街のことであるが、なるほどあの街は男子禁制、例外はあの街の文官だけとなればカルンを街に入れさせるにはそれしかないだろう。


「しかし、何故そのようなことを? ワシが皇都に戻ればよいのではないかの?」


「セルカ様は温泉が大層お気にめしたと聞き及んでおります、そこで我が国随一の温泉が湧き出ますフガクの街の方が、過ごすに良いだろうと女皇陛下はお考えでして。しかし、お二人を長々と引き離すのもかわいそうなのでこのように取り計らったと書状には書かれておりました」


「あ…あぁ、なるほどのぉ」


 ウチギにいわれてそういえばカルンとは、婚約者同士という設定だったということを思い出した。

 確かに王国よりは道中安全とはいえ、旅路に危険は付き物な所では婚約者同士が離れ離れと言うのは本ができそうなほどのことになってしまう。


「ふむ、女皇には感謝の手紙を書いておくかの。後でそれを届けておいて欲しいのじゃ」


「かしこまりました」


 何にせよわざわざ女皇が手を回してくれたことには違いない。本当であれば直接礼を言うのがいいのだろうが、それはまた今度。

 とりあえず今は、手紙で感謝の言葉を綴っておくのがよいだろう。


「それではいつ出発するかの?」


「王太子様も長旅でお疲れでしょうし、幾日か開けてからでよろしいかと…」


「ふむ…それもそうじゃな。おぉ、せっっかくじゃウチギに領主代行の仕事見せてもらえばよいのではないかのぉ?」


「本日の分は終わっておりますので、明日からで良ければ」


「うむ、では明日から頼むのじゃ」


「え? 僕の意見は……」


 カルンが何かいった気がするが、仕事を見せてくれるウチギへの感謝の言葉だろう。

 そう、感謝の言葉はすぐに伝えたほうが良い。ならばとカルンのことをウチギに任せ。

 ワシは手紙を書きに、さっさと部屋へと戻るのだった…。

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