331手間
わるいりょうしゅを たおした
りょうちは へいわに なった
で終われば良いのだが実際はそうもいかない…。
領主の一味が領地運営に密接に関わっていたのなら。首をすげ替えたら運営が立ち行かなくなることだってある。
上が居なくなったことで治安が悪くなる場合もある。
幸いというか…今回の騒動で中核だったのは領主を筆頭にした、力自慢の脳筋ども。
力自慢の癖に防人などの力を示す仕事をしない、バカだから文官の仕事もできない。
要するに唯一活躍できる場を自ら拒否したせいで、何も出来ない無能集団…それが今回の犯人だった…。
お陰で領地運営に必要な文官は更迭する必要もなく安泰、治安維持の防人もそのままなので問題なし。
「なんでワシがこんな目に……」
「も…申し訳ございませんセルカ様、私どもが至らぬばかりに……」
だが領主が居ないというのはそれだけで大問題だ。
忌々しいことにアボウはバカの癖に、領主の仕事はきっちりこなしていたらしい。
部下に全てを押し付けている様な奴であれば、どれほど楽だっただろうか…。
「何故ワシなのじゃー」
「申し訳ございません……」
目の前にあるのは書類の山…。
前言撤回、きっちりやっていた…では無く自分に理のある仕事だけはやっていた。
自分の手柄になる税あたりのことは細やかにやっているのに、防人に関することは杜撰としか言いようがない。
「しかしのぉ…ある一定以上の身分か権限が必要なのであれば、スズシロおぬしがやっても良いじゃろうに」
「お恥ずかしながら…私この手の仕事はとんと…」
「ぐぬぅ…厳密な法規制が無いのも考えものじゃぁ…」
政に関わらないというのも、ただ単に女皇が強制的に国の者として頭数に入れないというだけ。
権限が無いというのも、ワシが王国側に立った場合だけ、それ以外であれば女皇に比肩する権力を持つといってもいい。
まさかスズシロがそんな重要な事をワシに伝え忘れていたとは…いや、女皇の言葉だけで安心していたワシが悪いのではあるが…。
要するにだ…契約書も何もないただの口約束、お互いやろうと思えばどうとでもできる。
善からぬことなぞ考えてもいないが、それができる立場をを許す女皇は肝が太いのかアボウとは別の意味で抜けてるのか…。
だがそれが巡り巡って、書類仕事をさせられるとは思いもしなかった。少しでもソレに巻き込まれるのを避けようと、カルンから離れたと言うのに!
「スズシロは普段手早く段取りを済ませておるであろう? 侍中頭の仕事とて書類とは無縁ではなかろうに…」
「頭の仕事といいましても…女皇陛下との護衛と身の回りのお世話という侍中の仕事に加え、訓練や選抜程度で…」
「あとは全部文官がやっておるということかの…?」
「えぇ…」
「この国、文官が反旗を翻したら為す術も無いのではないかえ…」
「彼らも腕っ節がさっぱりですぐに制圧されるのは分かってますし。領地の文官は各地の領主次第ですが、城の文官は下手な地主よりも待遇がいいので」
「なるほど…処遇に不満はないから大丈夫ということかえ。ところで地主とはなんじゃ?」
「領主の居る街以外を治めている者たちですね、領主の部下のようなものです」
「ふむ…なればこの領の地主たちも、一応捕らえておった方が良いのではないかえ?」
「流石に捕らえると色々と不都合がありますので、各地の防人に警戒と監視の命令を出しておきました」
「むぅ、そういうことは出来るのに、書類仕事出来んのかのぉ…?」
「数字を見てもさっぱりでして……」
ワシの決裁が必要な書類を選別するのに、文官だけでなく侍中も使っているので、これはスズシロ個人が苦手というだけだろう。
なればこの手のことが出来る侍中に丸投げしようと思ったが、決裁に必要な身分というか権限が届いていない。
唯一届いているのは侍中頭のスズシロだけ、だが彼女は書類仕事がさっぱり…。となれば後は両方合格点のワシしかいない…と……。
「それで…ワシはいつまでこれを続けておればよいのじゃ……」
「皇都へ顛末を伝える馬を出しておりますが、新しい領主か領主代行の者が来るまでとなりますと、一月くらい…でしょうか?」
「ひと…つき…」
「あぁ、セルカ様! 誰かーだれかー!」
スズシロの無常な言葉を聞き、ぺしょーんと机に突っ伏すワシを前に狼狽えるスズシロを尻目に、今日はもうお終いにしようと固く心に誓うのだった…。




