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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで皇国へ
348/3466

328手間

 社のある街から駕籠、馬車と乗り継いで数日、目的の街の手前で街へ入れる牛車へと乗り換え漸くたどり着いた。

 アボウが治める領、彼の屋敷がある街は今まで見てきた皇国の街とは雰囲気が違っていた。

 ゆるゆると進む牛車の中から、行き交う人々を眺めその違和感を口に出来ず首を傾げる。


「ふーむ、なんぞ他の街と違うような気がするのじゃが…」


 街と外を隔てる門、そこまでは特に気にもならなかった、だが中に入り人通りが多くなってくるとそれに従い違和感も大きくなる。


「セルカ様。この街は外に出る男が多いので、もしかしたらそのせいではないでしょうか?」


「ほう…言われてみればその様な気がするような…」


 一緒に牛車へと当たり前のように乗っているスズシロに言われてもう一度外を見れば、なるほど確かに女性が多い皇国では珍しく、男の比率が高いかもしれない。


「ここの初代領主…その頃はまだ皇国は無く、ここもいくつもある里の内の一つだったそうなので正確には里長ですが、まだ戦士としての側面が強かった防人として身を立てて里長となった人物が男で、代々その血筋の男は女に負けぬほどの丈夫でそれを慕い同じような血筋の者が集まったから、この街には外に出る男が多いのだとか」


「ほうほう、その様なことがあったとはのぉ。王国に住む獣人は男のほうが強いようじゃし、もしかしたら王国側におった獣人と縁があるのかもしれんのぉ」


「かもしれません。しかし、今いる…いえ、勇猛果敢で名を馳せていたのも今は昔、今では過去の栄光に胡座をかいている者ばかりだそうで…」


「なるほどのぉ…」


「戦える力はあるのに免除されているからと防人の任に就かず、それもあり以前は城でも重用されていたそうですが今では見向きもされぬ有様」


「ふむ、それで此度の凶行と…」


 小説や物語の中ではよく見る、傲慢な小者没落貴族の起死回生の一手。

 まさかそれを本当にやる者がいるとは思わなかったが、そうなると次が見えない。

 今代の神子がワシで無ければ、あの間抜けは確実に弑することを成功させているに違いない。

 だが問題はその次、神子を排してどうしようというのだろうか…。


「ま、会ってみれば分かるじゃろう」


「何が…でしょうか?」


「いやなに、此度の騒動なにがしたかったのかのぉとな」


「男の地位向上という話でしたが…」


「確かにそれも何が(・・)ではあるのじゃが、ワシに手を出した後のことが分からんでのぉ…」


 フリにしろ本気にしろ、謝罪という手を取った意味も分からない。

 謝罪をするということは非を認めたということ。たとえ部下が勝手にやったとしても多少なりとも罰を受けねばならない。

 だからこそスズシロは返事の手紙は焼いたが、謝罪をする旨を伝えてきた手紙は焼いていない。

 あとで謝罪などしていないしするつもりもないと、しらばっくれても大丈夫なように。


「行けば分かることかと、謝罪をしたとことで死罪は免れぬでしょうが…精々アボウだけか一族郎党かの違い程度」


「一応相手は領主なのじゃから、罪過を女皇の沙汰なしに決めても大丈夫なのかえ?」


「政に関してのちょっかいでしたら女皇の沙汰が不可欠ですが、此度は直接害してきたのです。それも一介の巫女などではなくセルカ様を…犯人も誰とも知れぬ賊ではなく領主の側近、であれば領主はその首を差し出すのが道理であり道義でございます。絶対にありえませぬがたとえ女王陛下が領主を許そうとも民が許さないでしょう」


「それはある意味分かりやすくていいのじゃが…」


 スズシロがいうのであれば正しいのだろうが、目を爛々と輝かせ両拳を握りしめての力説は、暴走しているのではないかとも心配になる。

 フンフンと鼻息荒いスズシロが落ち着いてきた頃、ゆるゆると進んでいた牛車が止まり、とうとう件の領主の屋敷へとたどり着いたのであった…。

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