3443手間
片付けが終わりついていった先は最初にスゴアルアドと出会ったあの家だった。
中には入り口以外の扉や窓はなく、家具などもその殆どが石製で、そこに僅かばかりの古い布製品が掛かっていたりなどで、さほど飾り気はない室内だ。
「ほう、なかなかに広いのぉ」
「そうか? あぁ、体格を考えればそうか。この家は一人用でな、共同で住む家はもっと広いぞ」
「確かに、おぬしらの体格であればそうなるのかの」
一人用ではあるものの、ワシらからすれば十分に広い石製のテーブルに備え付けの椅子は一つしかなかったので、ワシらは魔晶石で椅子を創り適当な所に座り、キッチンらしき場所に立つスゴアルアドの背を見やる。
彼は手慣れた様子で壺から何かしらの粉を、金属製のカップで石製のボウルへと入れると、そこへ水瓶から柄杓で水を注ぎ入れ、腰を入れた動きでこね始めた。
「今からパンを作るのかえ?」
「パン? いや、この粉を焼くだけだぞ」
パンならば焼くまでにそれなりの時間が掛かる、別に待てぬわけではないができる頃には昼食ではなく夕食になりそうだと思わず声を掛ければ、彼は違うと首を横に振る。
彼はそのままこれ以上言うことは無いとばかりにしばらくタネを練ったあと、満足いく仕上がりになったのか、タネをパチンと叩きボウルを脇に寄せる。
「何か食べれない物とかはあるか?」
「あぁ、この子は肉は食べれぬ。果物が主食であるが、それは持ってきておるから問題はないのじゃ」
「そうか、それじゃあ貴女は?」
「ワシに喰えぬ物はないが、小食じゃからの、おぬしらが普段どれほど食うかは知らぬが、まぁ、驚くほど少なくでよい」
「そうか」
それは残念だと背中越しに呟くと、竈に意を入れた後、彼はまた別の壺を開けて中から太い繊維をほぐしたような見た目の肉を取り出して取ってのついた深皿のような鉄板に乗せ焼き始める。
ただ肉をほぐしたものではなく、何かに漬け込んでいたのか、少し甘い香りも混じった肉を焼く香りが漂ってきたころ、彼は脇に寄せていたタネの入ったボウルをひっくり返し、タネを適当な大きさにちぎって石製の棒で手早く薄く延ばすと、それを竈の内側に叩き付け始めた。
「何をしておるんじゃ?」
「こいつは竈の内側に貼り付けて焼くんだ。これなら上で別の物を焼きながら、こっちも焼けるだろう?」
「なるほどのぉ」
思いっきり火が燃え上がっている竈の中に手を突っ込んでいるが、あの毛に燃え移らないのだろうかなどと心配になるが、手慣れているからかそれとも燃えにくい毛なのか、焦げた様子もなく貼り付け終えると、何事もなかったかのように柄の長いヘラで肉をかき混ぜ始めるのだった……




