3438手間
果実酒はさして度数はさほど高くないとはいえ、王国などで飲まれている麦を原料とした酒より酒精は強い。
それを喉が渇いた時に飲む水のように呷れば、咽るのは当然のことだろう。
「もう少しゆっくり飲まねばきつかろう」
「なんて強い酒なんだ、これはもしかして出来たばかりの酒なのか?」
「ん? どうじゃったろうな」
酒にもよるだろうが、確かに出来たてというのは酒精が強そうにも思える。
言われて酒瓶に貼られているラベルを見れば、この二本はちょうど十巡りほど前に造られたもののようだ。
「十巡り前でこの強さ、出来た当時はどれほど強かったんだ」
「保存状態が問題なければ、さほど変わらんとは思うがの」
「しかしこれは、仕事終わりにグッと飲むようなものではないな」
「そうじゃの。確かにその様な飲み方はせんのぉ」
ワシが持ってきた果実酒は基本的に落ち着いて飲むような物であって、労働者がその日の終わりに酒場で呷るような部類の酒ではない。
そういう飲み方をするのは、安い果実酒に保存性や味が足りないのを補うために、スパイスやらを入れた物を温めた酒が主で、麦の生産地ではそれに加えて王国と同じように麦酒も加わると言った所だろうか。
「しかし、ふむ、それでその反応なのであれば、もっと度数の高い酒は持ってこなくて良かったのぉ」
「これより強い酒があるのか?」
「それの四、五倍は強いモノがあるのぉ」
「そんな強い酒を飲んで大丈夫なのか?」
「弱い者は舐めただけで倒れるじゃろうな」
蒸留酒は果実酒の比ではないくらいに強い酒だ、それこそ酒に弱い者であれば、比喩ではなく文字通り呷ったりなどすればひっくり返るほどに。
そしてその弱い者にはスゴアルアドたちも含まれるなと、目の前の光景を見て確信する。
何せ舐める程度の量しか注いでいなかったのだが、殆どのスゴアルアドたちが深酒でもしたかのように既にふらふらとしており、蒸留酒はおろかこの果実酒も渡していいものだろうかと心配になる。
一応まだまともに話せる者に、これはこのまま渡しても良いかと聞けば、彼は実に真剣な表情で、水で薄めて飲むから大丈夫だと、ややふらつく足を押さえて大真面目に頷き、その表情には頼むから酒を取り上げないでくれという声が聞こえるかのようだ。
果実酒を水で薄めて飲むなぞ何と無粋なと思う気持ちがないでもないが、前後不覚になって死人やらが出るよりましかと、酒はそのまま渡すことにするのだった……




