3417手間
斜面を駆け登るにつれ、わずかに生えていた低木や草花なども減っていき、足元には雪やむき出しの山肌が見え殺風景になってゆく。
それと同時に気温や空気も薄くなってゆき、何より行く先は厚い雲に覆われ全く見通せず、本当にこんなところに山の上の人と呼ばれる者たちが住んでいるのだろうかと思ってしまう。
とはいえ山の麓から見える場所に集落などがあれば既に発見されているであろうし、もしアラクネの幻術に似たようなモノで隠されていたとしても、ワシの目には見えるので、少なくとも雲の下には山の上の人は住んではいないのだろう。
それに何より、山の人ではなく、わざわざ山の上と言われているのだ、素直に山頂付近を探す方が良い。
「(山の上って何もないね)」
「そうじゃな、もっと低い山であれば木々や獣たちも居るじゃろうが、これほど高いとなぁんにもないからの」
高山は人々はもちろん、獣や木々、果ては草花ですら住むことを諦めるような場所だ。
そも神国の国土のほぼ全体が高山地帯であるというのに、そこから更に高い場所となれば推して知るべしだ。
「(でも、山の上の人は住んでるんだよね?)」
「そうじゃな、全く酔狂な事じゃ。こんな場所では食うにも困るであろうに」
「(果物も花もないし、何食べてるんだろうね)」
「ドワーフと呼ばれる者たちは、石を食うておるからの、山の上の人という者たちも、そういったワシらでは考えられぬ物を食うておるのやもしれんのぉ」
「(石を食べるの? ほんとうに?」
「んむ、今度見にいくかえ?」
「(うん、見にいく!)」
ワシですら実際に目にせねば信じてはいても理解は出来なかったモノだ、見に行くかと言えばアラクネの子は余程興味があるのか、楽しそうに返事をする。
そうこうしている内に蜘蛛の下に入ったのだろう、急激に辺りは暗くなり雪が風と共に吹き付け始める。
「(うわぁ……)」
「ワシから決して離れぬようにの」
今は障壁によって雪も風もワシらに何の痛痒も与えることは無いが、はぐれればどんな危険があるか分からない。
何よりこの猛吹雪だ、はぐれたら探すのも苦労するだろうが、まぁこんなに何もないのだ、マナを見ればすぐに見つけるのは容易だろう。
「(でも、寒くもないし大丈夫だよ)」
「おぬしの幻術のように、寒さやらをワシが和らげておるからじゃの」
「(離れたら寒くなる?)」
「そうじゃな」
別に離れたところで直ぐに消えるほどワシの法術はやわではないが、それを言っては好奇心に駆られてふらふらとどこかに行ってしまいそうなのだ、離れたら効果は無くなるぞとやんわりと遠回しに釘を刺しておくのだった……




