3414手間
アラクネの子の採寸を終えてから注文などとなると、完成までにそれなりの時間が掛かるだろうと文官と共に高を括っていたら、近侍の子がその手に防寒着を数着手に戻って来た。
「いつの間に用意したのじゃ?」
「いつまでもお古を着させる訳にもいきませんから、彼女の服を注文するときに、一緒に作っておきました」
「なるほど、そうじゃったか」
既に防寒着があることで慌てたのは文官で、用意した所にちょうど物資をそろえれば、そう予定を立てていたのだろうが、その前提が崩れたことで、急ぎ用意させますとバタバタと文官は部屋を辞していった。
「防寒着なので大きさに余裕は持たせていますが、一応着させてみてもよろしいでしょうか?」
「うむ、いざ着る段になって入らぬとなっては問題じゃからの」
アラクネの子にあの服を試しに着てみようかと言えば、彼女はパタパタと素直に近侍の子の前に行くと大人しく用意された防寒着に着替えさせられている。
ポンチョのような上半身用の他に、近侍の子は下半身用の物も用意していたようで、こちらは足が通る溝を開けたケープのような形で、溝に足を通してお腹の下で紐を結んで固定する。
「神子様、これで歩きにくいかどうか聞いていただけますか?」
「んむ。それを着て動きにくかったりはするかえ?」
「(大丈夫、ちょっと慣れないけれど動きにくくはない。けど、ちょっと暑い)」
「まぁ、ここは寒くはなさそうじゃからの」
流石に身振り手振りでは着心地がどうと聞くのは難しいからか、近侍の子がワシに通訳してくれるよう頼んできたので、ワシがアラクネの子に聞けば、彼女はその場をすこしくるくると回るように歩き回った後に、動きにくくはないと言うが、流石にここで防寒着を着るのは暑いとポンチョを脱いでその手に持つ。
「着心地が悪かったのでしょうか」
「いや、ただ単に暑かったから脱いだだけじゃな」
「そうですか」
着心地を聞いた後にポンチョを脱いだものだから、着心地が悪かったのかと近侍の子が眉を下げるが、寒くないここで防寒着を着るのは暑かっただけだと言えば、彼女はほっと胸をなでおろし、下半身のケープも外してやる。
「着替えも含め何着か作っておりますので」
「うむ、間違いなく持ってゆこう」
流石に今ここで出発という訳でもないので、脱いだ防寒着を近侍の子に手渡し、改めて出発する日時を決めようとクリスに向きなおすのだった……




