3413手間
山の上の人を探しにワシが出ることは決まったが、問題はそこに掛ける人員である。
「今回は、最初からワシ一人で行こう」
「また何故に」
「流石にこう何度も騎士たちを、大きく動かすのは問題じゃからの。何より今回は山の上じゃ、探すにせよ移動するにせよ、人が多くては動きにくくてかなわん」
山の上は、当然天候が悪く気温も低い、マナこそ薄くはないものの気圧は相応に低いので、確実に体調を崩す者が続出する。
しかも、この周辺の山脈の地形は険しく、その厳しさは何百巡りも人が登ってこちら側に、誰も来たことがないという時点で察せられよう。
そんな場所を住む所も分からぬ者を探し出すのだ、凡人では何巡りも掛かり、何人もの人死にが出るだろう。
「ワシなれば、地形も天候も無視して移動できるからの」
「確かに、高山の探索は死者が付き物だからね。分かった、今回もよろしく頼むよ」
「うむ」
クリスは渋々ながらも許可を出したので、残る問題はアラクネの子をどうするかというものだ。
留守番をしてもらうのが一番だが、ワシが居ない間、彼女は話し相手が居なくなり、さほど長くは開けるつもりもないが、万が一確実に伝えたい事がある事態になった場合に困るだろう。
「(私もいっしょに行く)」
「む? ついてくるのかえ?」
「(うん、私も山の上の人に会ってみたい)」
「なるほど。しかし、寒いのは平気かえ?」
「(わかんない)」
「ふぅむ、それもそうかえ」
山の上は確実に極寒だろう、そこに下半身だけとはいえ蜘蛛の身で入って大丈夫なのか。
当然そんな寒い環境に身を置いたことがないであろう彼女は、ぶんぶんと首を横に振って答える。
まぁ、ワシが障壁で彼女を寒さやらから保護してやればよいかと、すぐに考え直す。
とはいえ一応は対策をしておいた方が良いだろうと、近侍の子に彼女が使える防寒着を用意するように指示を出す。
「お任せください、すぐに用意してまいります」
「んむ」
指示された子は何故か我が意を得たりとばかりに、にこやかに頷くとすぐさま部屋を辞していった。
「そんなに急ぐ必要もないが……」
「張り切ってくれる分にはいいんじゃないかい?」
「そうじゃな」
アラクネの子が一緒に行くならと、クリスも彼女が食べる物も用意するように指示を出し、今度は文官がこちらは普通に礼を取り、防寒着の用意される頃合いにまた用意させますと大きく頷くのだった……




