3411手間
アラクネの子と遊んでいて分かった事だが、彼女の幻術は彼女自身が自分に属すると考えている物のみに作用する様だ。
例えば彼女の着ている物や手に持っている物はもちろん、誰かがイタズラで彼女の頭の上に乗せた木の葉も幻術の対象になる。
ただ自分より大きすぎる物は幻術の対象にはならず、最大の大きさは自分よりも少し大きい程度のようだ。
「ふむ、これはこれで便利そうじゃが」
「彼女は糸に付与できないのが不満そうですが」
「そこは彼女らにしか分からぬ価値観なのじゃろうな」
ワシら獣人が毛並みにかける情熱を、他の者たちは本当には理解できないし、その逆もまた然り。
ともかく彼女は糸に幻術を掛けれないことを悩んではいるようだが、それはそれとして幻術を褒められると実に嬉しそうにするものだから、かわいいからと折に触れては褒められているので、その不満点を苦にするということは今のところないだろう。
「そういえば、他に苦手な者とかはおらんのかえ?」
「(わたしは森のみんな以外には会ったことないからわかんない)」
「私は、ということは、他の者は別のアラクネに会った事があるのかの」
「(うぅん、話だけ聞いたけど、山の上の人に会ったって聞いたよ)」
「山の上の人とな?」
他に幻術が苦手な者が居れば、その者のやり方が参考になるかもしれない、そう思っての一言だったが、全く別の情報が引き出されて、一緒に聞いていた近侍の子らも驚いて互いの顔を見る。
「(うん、糸ときらきらの石を交換したって聞いたよ)」
「しかし、身を飾っておる者はおらんかったように見えたが」
「(きらきらの石は結界に使う糸のはじまりと終わりにくっつけて、結界の強度を上げてるの)」
「なるほど、触媒として使っておるのかえ。それにしても山の上の人のぉ、それはワシらと似たような見た目かの?」
「(うぅん、話に聞いたのだと、もっとこう大きくてぼんやりしてる感じ)」
「ふぅむ?」
山の上で暮らしている者たちかと思ったが、どうやらかなり容姿はワシらとは随分と違うらしい。
ただ彼女も思念で伝えられただけで、直接見たわけではないので、かなりぼんやりとしたイメージだが、オークよりも体が大きくもっと穏やかというのは分かった。
「これはもう、確かめに行った方が良さそうじゃのぉ」
居ると知ったからには無視することも出来ないし、山の上にこもっている訳ではなく、アラクネたちと交流もあるという事はたまに降りてくるという事だ。
であれば何か衝突が起きる前に、どうにか交流を持った方が良いだろうと、すぐにクリスに伝えるよう、近侍の子に命じるのだった……




