3408手間
ちゃんと言って出てきたのならば、アラクネたちに逆恨みされるようなこともないだろう。
しかしだ、この子をここに置いておくのもそれはそれで問題になる。
「置くのは問題ないと思うんだが、彼女をどう扱うかは慎重に考えないとな」
「獣人と言えば大抵の者は納得するであろうがの。まぁ、納得せんでもワシが獣人じゃと言えばそれは獣人じゃ」
「獣人には完全な狼みたいな人もいるしね、蜘蛛みたいな人もいてもおかしくは無いか」
獣人はこうだと言う法があるわけでもなし、彼女は獣人だとワシが言えば、その時点で彼女は獣人として分類される。
「周知するのは決定事項として、問題はそれまでの間、彼女にどこにいてもらうかだが」
「幻術が使えるのじゃから、それで姿を隠してもらえばよかろう。それ以外の時はワシの傍に居るのが一番じゃろうて」
「セルカの傍に?」
「んむ。言葉通り、ワシしか話が通じぬのじゃから致し方あるまい?」
「それもそうか」
姿を隠すことに関しては、幻術があるのだから全く以って問題ない。
そんな話をしていると、流石にアラクネの子は飽きてきたのか、ちゃかちゃかと足を動かしワシの体を伝い、頭の上に登って来た。
「そういえば、幻術を使っておる間に、誰かに乗ったり突いたりしたら気付かれんのかえ?」
「(術で隠せるのは姿だけ、音とか感触は隠せない)」
「そうかえ、では姿を隠したまま、ワシ以外には乗らぬようにの」
「(なんで?)」
「みんな足が二本じゃろう? ワシのように強くないとこけてしまうからの」
「(それは危ない)」
「じゃろう?」
ワシからすれば羽のように軽くとも、蜘蛛の身体も相まって、彼女は普通の四つや五つくらいの子たちよりも体重がある。
そんな子が突然体を登ってきたら、驚く以上にこけたりして登られた方も彼女自身も潰されたりして危険になってくる。
「あ、姿を現しておっても、相手が良いと言うまではダメじゃからの」
「(うん)」
だったら姿を見せたら突然乗っても良いかという言葉を先回りして封じるが、彼女は元気よくワシの頭の上から返事する。
この時点で普通の子供ならば返事だけは威勢がいいと言う奴に見えるが、彼女の思念からは確かに了解しているのが伝わってくるので問題ない。
「あー、セルカちょっといいかい?」
「なんじゃ?」
「途中から姿を隠したせいか、セルカが独り言を喋っているようにしか見えないんだが」
「ふむ、確かにそれはそれで問題じゃな」
ワシでは彼女が幻術で隠れてるかどうかは判断が付かない、ならばどうするかと頭を捻れば、彼女が頭の上で慌てて姿勢を正すのを感じ、くすくすと笑いながら手で支えてやるのだった……