3403手間
ワシをじっと見上げている子は、パッと見て四歳か五歳くらいの体格であるが、その見た目は幼児特有の丸さはなく、体の大きさに目を瞑れば青年期の初め頃、幼さと凛々しさを合わせたような時期の姿だ。
それだけでもある種の異様さを醸し出しているが、近侍の子らが飛び上がるほどに驚いたのは彼女の下半身、つい先日まで話題に出していた蜘蛛のような姿を持っていたからだ。
そして当然近侍の子らがそれほど驚いたのだ、部屋の入り口付近に立っていた近衛たちも駆けつけてくるが、彼らは驚きの声を上げたかと思うと近衛の一人が慌てて外套を外してアラクネの子の肩にかけてやる。
「咄嗟にその行動が出来るのは流石じゃのぉ…… まぁ、森の中でならばともかく、ここでその恰好は何であるしの。上だけで構わぬから、この子の体格に合う服を持ってきてくれるかの」
「そうさせて頂きたいのは、やまやまでございますが…… 私が行くと色々と憶測を呼びそうでございますので」
「ふむ、そうじゃな」
「あ、じゃあ、私が行ってきます。サイズが合わなくなった服があるので、それ持ってきます」
「んむ」
外套を羽織らせた近衛に、アラクネの子が着れる服を持ってくるよう指示するが、彼は申し訳なさそうな顔で、自分が取りに行くと色々と不味いと取りに行くのを辞退したところ、近侍の子の一人が自分のお古を持ってくると言って飛び出していった。
「これ、いえ、この子がアラクネですか」
「そうじゃ、そうなのじゃが」
アラクネの子は近侍の子らが驚いた辺りからじっと動くことなく、ずっとこちらを見上げている。
「確か思念で会話するとのことでしたが、今もされているのでしょうか?」
「いや、さっきからずっと無言じゃの」
近侍の子が言うように、思念でのみ会話するならば、確かに他から見ればずっと無言でいるように見えてもおかしくはない。
しかし、ワシにも彼女の声は聞こえず、本当にさっきからずっと無言でこちらを見上げているのだ。
森で出会ったアラクネたちよりもかなり小さいので、その体格相応であれば彼女は会話がまだできなかったり、苦手なのかもしれない。
そう思いしばらく待ってみたが、やはりじっと見上げるばかりで無言を貫いている。
「もしや」
まさかと思い彼女の目の前で、さっさと手を振ってみれば、それに対しても彼女は無反応。
「これ、もしかして気絶してますか?」
「そのようじゃな……」
体を支える足が八本もあるからか、気を失って尚ずっと立っていたようだ。
とはいえこのままにしてはいけないだろうと、彼女をそっと抱き上げソファの上に下ろしてやる。
「おぬしらは、文官や侍女たちが入らぬように外で待機しておれ」
「はっ」
近衛たちに先ほど服を取りに行った近侍の子以外を中に入れぬように厳命し、ワシらはとりあえず彼女が起きるまで、静かに彼女を観察することにするのだった……




