3400手間
新たな懸念が出てきたことでワシは早速クリスの下に戻り、その懸念をクリスへと伝える。
「言われてみれば野盗どもだけが自由に出入りできる、人除けの幻術を使えたらと思うと、ぞっとしないな……」
「まぁ、あれほどの複雑な効果の術を使うとなると、野盗程度では無理じゃろうがの」
「だが、魔法は魔導具か覚えれば誰でも使えるだろう?」
「幻術の魔法を扱うには天与の才が必要じゃからの、ただのヒューマンには無理じゃろう。エルフの中でも魔法の才に秀でた者であればあるいは、ハイエルフならもしかしたら使えるやもしれんといった具合じゃからの」
別にこれはヒューマンが劣った存在という訳ではなく、飛ぶという一点において、人と鳥を比べて人が鳥に負けているのは当然の話といたっところだ。
「それにじゃ、もし仮にそれほどの魔法の才があるのであれば、野盗などするよりも王家にでも仕えた方がよほど良い生活が出来るじゃろうて」
「それは確かに」
野盗なんて存在は所詮、人様のお金をちょろまかしているような卑しい奴らだ。
侘しい農奴よりかは良い暮らしを出来るかもしれないが、それでも週に一度、肉の端切れが一つ増えるか否かくらいの違いでしかないだろう。
それよりも魔法の才があるのであれば、どれほどの木っ端貴族であろうとも仕えることができれば、野盗の生活よりも安全で安定して良い生活が送れる。
「兎角、ああいった尖った効果のある魔法を扱うと言うのは、鳥のようにそれに特化した姿でなければ使えないものじゃからの」
「それにしても、なんでそんな者たちがここに集中しているんだ……」
「こんなところじゃからこそじゃろうて」
「それは一体?」
「先も言うたが、アラクネが美人であったから、騎士は友好的に話しかけたわけじゃ。これが男であっても、まぁ野盗じゃろうとも一応は声をかけたじゃろう。しかし、これが巨大なトカゲであったり、蜘蛛であればどうじゃ?」
「声も掛けてない、かもしれないな」
「そう言うことじゃ、こと自分と違う事でヒューマンは攻撃的になるきらいがあるからのぉ。もし他の地域にそういった者たちが居ったとしても」
「排除されているという事か」
「んむ」
ほんのわずかに自分たちと違うからと、驚くべき攻撃性で以て排除に掛かる。
自分たちが弱いと認識しているからこそ、自分たちと違うモノを排斥したがるのは致し方ないと思うが。
それが理解出来ないのもワシが強すぎる故に、他者を脅威と思っていないからこそだろうが、ともかくそういった事故が起きないように見たことのない生き物が居た場合は、勝手に攻撃せずに報告を優先するようにするよう手配するとクリスは約束するのだった……




