3397手間
こちらからどうすることも出来ない以上、アラクネたちの問題はこれにて一件落着として、まだクリスは何か引っかかっているのか顎に手を当て考え込んでいる。
「セルカなら、その幻術を覚えれるんじゃないか?」
「さしものワシでも、幻術を覚えるのは無理じゃのぉ」
「前々から聞きたかったけど、幻術は本当に覚えれないのかい?」
「無理じゃな。例えるならばそうじゃのぉ…… 見えもせず、触れもせぬ土で器を作れと言われても、誰しも無理と断言するじゃろう」
「それはまぁ確かに」
「これは前にも言ったと思うがの、そんな状態で覚えたとしても効果を調整できぬからの、この国全体に人除けの幻術が掛かって無人の野となるは本意でなかろう?」
「あぁ、うん、それは困るな」
人除けの幻術にどれほどのマナが必要か分からないが、アラクネたちのマナを見る限り、ワシのマナであればため息程度の力で神国を覆う結界を作ることも容易い。
「それほどまでに差があるのか」
「安く見積もってもじゃがの。というよりも、あの程度のマナであれほど強力な幻術を作れるアラクネたちがすごいのじゃ」
「そうなのか?」
「強力な術になるほど大量のマナが必要になるのは当然じゃ、それはクリスも分かるじゃろう?」
「それはもちろん」
大きな火を熾そうとすれば、それに見合った量の薪が必要になる。
だが幻術に至っては、単純に多くのマナを利用して強力にすればいいという話ではない。
「ワシは幻術は全く見えぬし感じれぬがの、そこに使われておるマナは分かるのじゃ」
「なるほど。足音を誤魔化すのに他の音を立てては、本末転倒ということか」
「んむ、まぁ、大体の幻術はそこにあっても不自然ではない程度のマナじゃからの。それもあってワシには全く分からんのじゃが、今回の人除けの幻術はその効果や範囲の割に使われているマナが少ないこともあって、ますますワシでは力加減次第では大変なことになるので覚えることはしないのだと言えば、流石にクリスも納得してくれるのだった……




