3396手間
アラクネと交流できるのはワシだけであり、平穏無事な日々を望む彼女らの為にも、クリスが関わらないと言ってくれたので問題は無いだろう。
何より彼女たちの幻術による結界が十全の効果を発揮すれば、遠からずこれまたワシ以外は行き来が出来なくなるのだから、頭を悩ませることでもない。
だが、その結界が十全に効果を発揮するまでがいつか分からない以上、その間に冒険者たちを近づけないようにするにはどうするか、それが問題になってくる。
騎士や兵たちならば上から命ずるだけで良いが、冒険者たちは禁じられると好んで見にいくであろう。
「誰も近寄らせず、かつ過度に好奇の目を集めぬ方法のぉ」
「騎士を無傷で制圧できるんだろう? なら冒険者程度は気にする必要がないと思うんだが」
「彼女たちの結界がのぉ、下手に慣れると効きづらくなるらしくての。できれば十全に効果を発揮するまでは、誰も近づけたくはないのじゃよ」
「なるほど。そうなると、分かりやすく魔物の巣を見つけたということにすればいいんじゃないかな?」
「ふむ?」
「それなら周囲に騎士を配していても、不自然ではないだろう?」
「じゃが、魔物の巣であるならば、それなりの数の騎士を配しておかねばいかぬじゃろう。流石に騎士を無駄に使うのは良くなかろう」
「確かにそこまで余裕があるわけではないしね。じゃあ、魔物の巣は潰したが、残党狩りの為に残っているということにしよう。これなら少なくともおかしくはないし、冒険者たちもわざわざ騎士が巡回しているのに魔物を狩りには来ないだろう」
「それが良さそうじゃな」
なるほどクリスの策が実に名案であろう、これならば森の周囲に騎士が居ても不自然ではないし、さほど数が居なくてもおかしくはない状況だ。
そしてわざわざ数が減った魔物を狩りに、冒険者たちが寄り付くこともないはずだ。
何せ魔物狩りは依頼が出ていないと労力に賞金が割に合わないので、ギルドから給金が出る訳でもない冒険者たちが好き好んで来ることは無い。
「しかし、今回は縄張りを移動した直後じゃから見つかったが、存外いろんなところにアラクネたちは居るやもしれんのぉ」
「縄張りの移動? それは聞いていなかったけれど、それはそれで何か問題がありそうなんだが」
「あぁ、それは大丈夫じゃ。問題は問題であったが、既に解決しておるからの。例の騎士たちが入れんかった森、あれが彼女たちの元々の縄張りじゃ。そこに急にホブゴブリンどもがやってきたから、今のところに逃げてきたらしいのじゃ」
「なるほど、それで見つからないはずなのに見つかったのか」
ほぼ完ぺきな人除けの幻術だ、ホブゴブリンどもが居なければ最初の結界も見つからなかった可能性が非常に、いや、確実に見つかっていないだろう。
何せワシは入れるが、入れたところで違和感を感じないので、あの蜘蛛の糸を見つけれなければただの森でしかないのだから。
とはいえワシがしらみつぶしに探すわけにもいかず、騎士や冒険者たちの巡回では見つけることはおろか、感じることも不可能。
そうなるといったいどれだけ森の中にアラクネたちの縄張りがあるのか分からないが、彼女たちの性格を見るに人に危害を加えることは無いだろうし問題は無いだろうと、苦い顔をしているクリスに大丈夫だと太鼓判を押すのだった……




