3393手間
野営地から引き上げる際、ワシの馬車に同乗するのは近侍の子らだけで、彼女らには一先ず森の奥に居たアラクネのことを共有する。
「半人半蜘蛛の人、ですか。特徴だけ見ると魔物のようにも思えますが」
「意思疎通が出来るから人であろう、蜘蛛の下半身は確かに受け入れ辛い者も居るじゃろうが、彼女らは間違いなく人じゃ」
「神子様がそう仰られるのでしたら」
「とはいえ今回会った彼女らは、臆病で戦いを好まぬ気質であったが、別の所に同じ者たちが居たとしても同じ気質とは限らぬから、気を付けるに越したことは無いがの」
「つまり他では好戦的な者たちもいるかもしれないと」
「そうじゃな。しかし、今のところ他に被害の報告がないことを見るに、もしいたとしても似たような気質じゃとは思うがの」
恐らく共通する気質は臆病さだろう、全く以って明確な双方を認識できる遭遇をしていない点を鑑みるに、居たとしても森の奥に引きこもっているのは間違いない。
好戦的であったとしても、自分の危機が避けられない時か、食糧確保の為くらいなものだろう。
何せ彼女たちの主食は木の実や花など、取得するのが実に平和なモノ、安全に大量に確保するために縄張りが必要であるが、戦うとしてもその時限定であろうし、何より彼女たちは人除けの幻術が使える、わざわざ戦って個体を減らすリスクを負う必要もない。
であればやはり、臆病で非好戦的な気質が基本と考えても良いだろう、無論、襲ってきたら積極的に反撃する程度はあるだろうが。
「しかし、何故私たちだけにその事を?」
「余計な興味を持たせぬ為じゃな。騎士とはいえ、酒の席で何ぞぽろっと言われて、たまたま他の者の興味をひかれても困るからの」
何せ彼女たちは上半身だけとはいえ、皆が見目麗しい女性だった、それ目当てに行く阿呆は絶対に居るはずだ。
それを防ぐ為にも、彼女たちの情報は出来るだけ伏せておいた方が良い。
「後のぉ、彼女たちは皆、服を着ておらん」
「服を、ですか?」
「んむ。まぁずっと森の中に居ったのであれば、服を着ると言うこと自体あまり意味がないのやもしれんがの」
体毛の代わりとして体を保護すると言う理由もあるが、ワシ程でなくともマナの扱いに長けていれば、わざわざ服で体を保護する必要もないので、服を着るという行為にまで至らなかった可能性もある。
ともかくだ、詳細を教えるのはクリスと近侍の子らと近衛たちに限定しておいた方が良いだろう、それ以上広めるかどうかはクリスに委ねても良いだろう。
「なんにせよ変な者たちや魔物でなくて幸いじゃったの」
「そうでございますね」
魔物や好戦的な気質の者たちであれば面倒なことになっていたのは間違いなく、彼女たちが大人しくて良かったとほっと胸をなでおろすのだった……




