3392手間
野営地に戻れば、今か今かと待ち構えていた近侍の子らに取り囲まれ、彼女たちが動いたのを見てようやく気付いた騎士たちが遅れてやってくる。
「神子様、森の奥に何が居たのですか?」
「なに、無害で臆病な子たちじゃったよ。騎士を森の外に追い出したのも、急に話しかけられてびっくりしたから、じゃったようじゃしの」
「む、それは女性に対して失礼な事をしましたね。できれば直接謝罪をしたいのですが」
「人に慣れておらんようじゃったからの、下手に刺激せん方が良かろう」
「でしたら、無理に謝罪に向かうのも失礼になってしまいますね」
地面に放り出された騎士が彼女たちに謝りたいと申し出るが、そもそも言葉が通じないしそんな状態で謝られても、臆病な気質の彼女たちが怯えるだけだろう。
「彼女たちの望みはひっそりと暮らすことじゃからの、ここには近づかぬように命を出す予定じゃ」
「ですが、冒険者たちは禁じられると逆に近づくのではないでしょうか?」
「その辺りは問題なかろう、どうせしばらくすれば近づけなくなるからの」
「それは一体?」
「ほれ、前にホブゴブリンどもの巣の近くで、奴らを見失って近づけぬ場所があったであろう?」
「この奥にホブゴブリンが?」
「いやいや、彼女たちはホブゴブリンではないのじゃ。あの幻術自体は彼女たちが作ったモノじゃからの、獣や魔物が居らんのはそれが原因じゃ」
「なるほど」
騎士が言ったように、冒険者たちは禁じられれば逆に近づきたくなるだろうが、それは人の性なので致し方ない。
なのでここに騎士たちが居るから探索しなくても良いというお触れだけ出す、好奇心に勝てぬ阿呆であろうとも、貴族と揉めたい馬鹿は居ないであろうから、下手に禁じると命じるよりは良いだろう。
逆に騎士たちは命じればそれを順守するので問題はない、何せワシが命じるということは、すなわち王族からの命である、それを破れる者など貴族に居るはずがない。
どうせ命を破って中に入ったところで、驚いた彼女たちに何も出来ずに追い出されるだけなのだから、そこまで心配することもないだろう。
「なんにせよ、彼女らの幻術のせいで獣が居らんかったということじゃな」
「では、これで引き上げでしょうか」
「そうじゃな。しばらくは、冒険者たちが不用意に近づかぬように巡回をする必要があるが、さほどせずに興味を失うじゃろう」
冒険者たちも今日だけで解決するとは思っていないであろうし、しばらく騎士たちが居ても疑問には思わないであろうしその程度で済ませておいた方が、下手な注目を集めないだろうと、騎士たちに野営地を引き払う準備をさせるのだった……




