3389手間
ホブゴブリンの侵入を防ぐにはどうしたらいいか、ワシを放ってそんな話に夢中になっている彼女たちを観察すれば、獣除けの幻術は後から掛けているのかと思っていたが、どうやら糸を出すと同時に纏わせているようで、これが使えれば便利であろうと思っていたが、彼女たちにしか使えないやり方であろうとその考えを脇に置いておく。
「(ねぇこれどう思う?)」
「どう思うと言われてもの」
「(この糸から嫌な感じしない?)」
「さっきも言うたが、ワシは幻術は一切効かぬからの」
「(そっかぁ、効かない人にも効けば良いと思ったんだけどな)」
ワシの場合は耐性があるとか、ただ単に耐えられるだけとかそういった話ではない。
そういった者たちであれば、閾値を超えれば効くのであろうが、そういえばホブゴブリンどもはどうやって耐性を得ていたのだろうか。
自然にできたモノだと考えていた故に、そこで代を重ねていれば耐性を得るのも道理だと思っていたが、彼女たちがあそこで何千巡りも過ごしていたとは思えない。
何せ彼女たちは、あそこを居心地が良かったと言っていたのだ、それはつまり他の場所も知っているという事。
多く見積もっても数十巡り程度であろうし、そんな短期間で耐性を得れるものだろうか。
ならばもとより耐性を持っていたと考えた方が良い、ヒューマンの中でも術が効きにくい者と効きやすい者がいるので、それと同じようなモノであろう。
「単純に効果を強めれば良いと思うぞ。あやつらに効いていない訳では、なさそうじゃったからの」
「(それはそれで疲れそうだなぁ)」
「(でも追っかけられるよりましでしょ)」
「(それもそうね)」
よほどホブゴブリンどもに追いかけられたのが嫌だったのか、彼女たちはふるりと身を震わせて疲れるが致し方ないと結論付けた。
「おぬしらを追いかけた緑の奴じゃが、ワシとおぬしらが森の外に放り出した者たちが、かなり数を減らしておいたし、これからも数を減らしてやるからの。そうそう追いかけられることは無いと思うのじゃ」
「(え? あの人はいい人だったの?)」
「(悪いことしちゃったかな)」
「まぁ、おぬしらの対応は悪くは無かったと思うぞ?」
幻術で意識を奪ったとはいえ、丁寧に森の外に連れて行ったのだ、実際追い出された本人も、特に敵愾心を抱いている様子は無かった。
とはいえ彼女たちの下半身は巨大な蜘蛛であるし、その姿を見ていたら魔物だと斬りかかられていたやもしれないので、初手意識を奪ったのは英断だったろうと、胸の内だけで彼女を褒めたたえておくのだった……




