3387手間
今までまともにこちらが探索してこなかったから、彼女たちが見つからなかっただけかもしれないが、話を聞き様子を見る限り彼女たちがここに来たのはそれなりに直近であるようにも思える。
そして反応を見る限りかなり臆病な気質であろうし、恐らくは魔物か獣か、そういった類のものに追い出されたのだろう。
ただそうなると気になるのは、この周囲にその魔物や獣の類が全くいないということだ。
小さな鳥などは彼女たちを恐れて逃げ出してもおかしくはないが、大きな獣が臆病な彼女たちを恐れるとは思わない。
無論、最初はその体格の差に驚いて逃げるかもしれないが、それでも長くは続かないはず。
「(前に住んでたところに、緑の変なのがいっぱい来ちゃって)」
「(そう、誰も入れないはずの術の中にいきなりいっぱい!)」
「む? 獣や人すらも欺くあの幻術は、おぬしらが掛けたのかえ?」
「(え? あの術は掛けられていることすら、誰も気付かないはずだけれども、なんで?)」
確かに、近侍の子らや騎士たちは、あの幻術をおかしいと一切感じていなかった。
物を隠すのに例えば布なので隠してしまっては、そこに何か隠していると喧伝しているようなものだが、そもそも隠されていることすら認識できなければ、それが見つかることは無い。
あの時は幻術の発生源がホブゴブリンでも遺跡でもなく、自然にできたモノだと勘違いしていたが、なるほど全く別の者が掛けていたのか。
幻術をそもそも掛からない、認識できないワシでは全く別の原因では分からぬのも当然か。
「ワシにはそういった類の術は一切効かぬし分からぬからの、一緒にいた者が術にかかってようやく気付いたのじゃよ」
「(それでさっき何も無かったんだ)」
「(術が出来なくなったのかって焦っちゃった)」
「して、前の住処に変なのがいっぱい来たから、こっちに逃げてきたという訳じゃな?」
「(そうそう、前のところは居心地がよかったのに)」
「(術を場所に掛けるの大変なのにねぇ)」
「どうやって術を掛けておるのじゃ?」
「(糸に術を掛けて木に引っかけるの)」
「(時々交換しないと術が消えちゃうから面倒なんだけどねぇ)」
と言うことはあの森にも、よくよく観察すれば蜘蛛の糸が引っかかっていたのだろうか。
蜘蛛の糸など自然なモノすぎて気にもしていなかった、更に道中で見た細い蜘蛛糸を使っているとすれば、誰もそんな術が掛かっているなどと仕掛けすらワシのように気付かなかったであろう。
話を聞きこの目で見る限りは彼女たちが他の人を襲うような気質には見えず、あとは彼女たちが何を糧に生きているのか、それを以て危険性を計ろうと思い、さてどうやって切り出すかと考えていると、自分たちと違う者と話すのがよほど楽しかったのか、何も聞いていないにもかかわらず、彼女たち自らべらべらと喋り始めるのだった……




