3386手間
流石に蜘蛛だけあって実に慣れた様子でワシを簀巻きにすると、これから何をするのかと思えば何も考えていなかったのか、集まってひそひそと話し始めた。
正直、彼女たちの思念による会話で、わざわざ集まりひそひそと話す必要があるのかと思ってしまうが、声量と言っていいのかは分からないが、確かにワシの下に届く思念の大きさが下がっているので効果はあるのだろう。
「(それで、これからどうする?)」
「(外に持ってく?)」
「(でも帰ってきちゃうんじゃない?)」
「(来ないで―って言ってみる?)」
「(それしてもいっぱい来たじゃない)」
「(もうお家変えるの嫌だよぉ)」
実に姦しく話し合っているが、これを機にペリペリと糸を剥がしながら彼女たちを観察すれば、彼女たちの容姿が似通っていることに気付く。
いや、似通っているというよりも、殆ど同じ者がいっぱい居ると言った方が正しいか。
生まれた時期が違うのだろう、多少幼さなどを感じさせる者も居るのだが、それでも成長すれば全く同じ顔になるであろうことが容易に想像できるほど同じ顔ばかりなのだ。
「(ね、ねぇ、ちょっと見て)」
「(え?)」
「(うわっ、私たちの糸破ってる)」
ちらりとワシを見た一人が顔に驚愕の表情を貼り付け、他の子たちの肩を叩きワシを指差せば。
他の子たちも全く同じような表情をワシへと向けるものだから、ワシは思わず小さく笑ってしまう。
「(ひっひえぇ、許して、食べないで)」
「いやいや、そのような事はせぬ」
「(じゃ、じゃあ私たちをどうするつもりなの)」
「どうするつもりと言われてものぉ。おぬしらがここに居るのは初めて知ったしの」
「(私たちは静かに暮らしたいだけなんですぅ)」
何と言えばよいのか、彼女たちと話していると姦しい盛りの玄孫あたりと話しているような気分になり、思わず優しい口調になり彼女たちがなぜここに居るのかなどの話を聞くのだった……




