3382手間
ワシが出ると言う提案は、クリスにも否定されることなくすんなりと許可された。
何せ今のところ被害は出ては居ないが、抵抗どころか何をされたかすら分からないままに森の外へと放り出されたのだ。
相手の意図が何であれ今のところ害する気はないようだが、敵対する気になったとたん騎士たちは、何も出来ずに全滅するのが確定しているということ。
ならばさっさと原因を潰しておきたいと、そう考えるのも当然だろう。
「さて一体何が出てくるかのぉ」
「神子様ならば、なにが出ても問題は無いかと」
「そうじゃな。ワシだけならばのぉ」
「分かっております、私どもは野営地で待機でございますね」
「うむ。どういう手で騎士の意識を奪い、森の外に放り出したかが分からんからの」
ワシと共に来た近侍の子らは、騎士たちが設営した野営地で待機という約束で付いてきている。
放り出された騎士を発見した者や彼の診断をした医師の証言によれば、特に外傷もなく害意を以て何かされた訳ではないので、乱暴な手段を使ってはいないと思うが。
万が一を考えると、ここもワシ一人で動くのが得策だろう。
「それにしても律儀に運んだとしても、一体何のためにそこまで手間をかけるのか」
「自分の縄張りから、ただ単に追い出したかったのでしょうか」
「それならば、恐ろしい獣でも見せた方が早いと思うんじゃがの」
「恐ろしい獣だと、万が一にも反撃されると考えたのでは」
「なるほど、確かにのぉ」
恐ろしい獣を恐ろしく思わない者が居れば、確かに逆効果になる可能性がある。
だから意識を飛ばして、自分たちの縄張りから穏便に追い出すに留めた。
「そう考えると、ホブゴブリンなどと比べ物にならぬほど知恵が回る魔物のようじゃな」
「もしかしたら、ダークエルフたちのような者たちかもしれませんよ?」
「言われてみればその可能性もあるのぉ。でかい蜘蛛もドワーフたちが飼っておるのじゃし、外でも飼っておる者がおってもおかしくはない」
であれば、騎士たちに手を出さずに追い出すに留めた理由も納得だ。
手を出せば手痛い反撃を貰うと判断して、穏便な方法を取ったと。
とはいえ楽観的に判断するのは時期尚早だと、やはり近侍の子らは連れて行かずにワシだけで向かうと言えば、彼女たちは言いくるめてついてくるつもりだったのか、ついっと目をそらすのだった……




