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騎士たちを増員し探索した結果は、やはり全く同じものであった。
いや、正確には変化があったが、それは探索した結果見つけたモノといって良いかは疑問が残る。
「魔物や獣がおらんのは一緒じゃが、大きな蜘蛛や人の影を見た……のぉ」
「蜘蛛は岩の影などの見間違いの可能性もありますが、人に関しては先行した者を見ただけではと思いましたが、念のため見た者たちから聞いたところ、一様に女性だったとの証言が」
「まて、見た者たちじゃと?」
「はい。複数の騎士が女性の姿を見たと」
「それは報告書にしっかりと、書いておかねばならぬことじゃろうて」
蜘蛛も人も見間違いだろうと報告書を脇に置こうとしたところで、文官の言葉にワシは額に手を当て首を何度か横に振る。
「申し訳ございません。接触した者はおらず、被害も出ておりませんので。何より騎士たち自身が、女性っぽく見えたのは、最初に見た者の言葉に引っ張られたからだろうと、気にするそぶりもございませんでしたので、特に明記する必要もないかと」
「前に言うた事をもう忘れたのかえ? 騎士たちの報告はすべて子細漏らさず書くようにと」
何か処罰を言い渡されるのではないかと縮こまっている文官に、次はないと釘を刺してから女性の影を見たという騎士たちを連れてくるように指示を出す。
しばらくして連れてこられた騎士たちに話を聞けば、女性の姿を見たとはっきり覚えている上に、見間違いだろうと思っていた蜘蛛の姿を見た者と同じか同じ班の者ばかりであることが分かった。
「蜘蛛を見た、もしくは蜘蛛を見た者がおるから、念のため女性の影を確認した、と」
「はっ、あのような場所ですが、万が一を考えて確認しましたが、言葉通り影も形もなく、また見間違えるような物も周辺にはありませんでした」
「ふむ。常に同じ場所で見かけたのかえ」
「いえ、皆違う場所で見かけております」
同じ場所であるならば、例えば木の影が特定の時間帯だけそう見えたなどと言う可能性もあったが、違う場所で同じモノを見ているとなると、それがただ単に見間違えだとは思えない。
「ですが、誰も影もつかめておりませんので、やはり何らかの見間違えで、さほど重要ではないかと」
「それを判断するはおぬしらではない。何より幻術があるからの、何者かが人の影で以て人を釣っておる可能性もあるが…… 被害は無かったんじゃったな」
「はい。蜘蛛が苦手な者が嫌な思いをしている以外は」
「ふぅむ」
話を聞く限り手のひらより大きいなどと言う話ではなく、人を食べれそうなくらいに大きな蜘蛛らしい。
確かにそんなモノを苦手な者が見たら、例え騎士でも嫌な思いをするのは当然であろうが、多分蜘蛛の魔物なんだろうなと、討伐に当たるであろう騎士たちに命令する際は、蜘蛛が苦手な者は外してやるかと苦笑いしながら考えるのだった……




