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文官たちの多大な犠牲により、冒険者たちに対する依頼に関する諸々が決まり、早速依頼を発行したのだが、かなり仕事に飢えている者たちが多かったのか、すぐに依頼の枠が埋まったと報告があった。
すぐに枠が埋まるとは思ってはいたものの、かなりの速度に文官たちも枠を増やした方がいいのだろうと頭を抱えていたが、ワシがそれは必要ないと彼らを宥める。
「定期依頼であるしの、最初こそ多いじゃろうがどうせ後で落ち着いて、依頼を受ける者はそれなりの数になるだけじゃ」
「冒険者たちは元傭兵だということもあって粗暴と聞きますし、何かこう暴れないかと思いまして」
「依頼を増やせばそれだけ実入りが減るのは向こうも分かっておるじゃろう。それが分かっておるのに、暴れるような阿呆はおらんじゃろうし、もし暴れるようならば、それ相応の処分を言い渡すだけじゃ」
今回の定期依頼は一つの依頼を複数に、振り分けて行うような形をとっている。
それでも一枠あたりの依頼料は、同様の依頼の相場よりも、多少色を付けた額になっているが。
しかし、一つの依頼の報酬を分割しているので、当然枠の数が増えれば増えるほど、枠一つの報酬は少なくなってゆく。
百ある物を十人で分けるのと百人で分けるのでは、どちらが一人当たりの数が少なくなるかなど、学が無くとも分かる自明の理だ。
それでも文句を言うものは、子供でも理解できそうなことを理解できぬ本当の阿呆か、単純に自分が依頼を受けれなかったので文句を言ってるだけの阿呆かのどちらかだろう。
そしてそんな阿呆どもを止めるのは、同じ冒険者たちでありワシらではない。
何せ枠が増えて割を食うのは、仕事は変わらないのに依頼料が減る、既に依頼を受けた者たちなのだから。
「単純に出遅れて依頼を受けれなかった者たちが悪いのに、自分たちの報酬が減る。そんなことにならぬ為にも、彼らは文句を言う阿呆どもをしっかりと抑えつけてくれるじゃろうて」
「なるほど、ギルド内で自治をさせるのですね」
「勝手にやるだけじゃからの、阿呆どもの恨みは同業者が買ってくれるという訳じゃ。無論、聡い者はやらされておると気付くじゃろうが、気付いたところでやらねば割を食うのは自分たちじゃからの、黙ってやる他なかろうて」
同業者を恨んでくれるならば、それは身内同士での諍いであるが、依頼を出した側、今回はワシらを恨まれては色々と問題になる。
もちろん、相手が相手なので彼らも表立って何か行動するということは無いであろうが、出来る限りそういう想いはため込ませないに限る。
何にせよ自浄作用が期待できる内は、こちらが何かする方が問題が出てくるであろうし、しばらく様子見は必要であろうが、諍いについては手を付けなくても大丈夫だろう。
「とはいえじゃ、流石に諍いが大きくなれば、こちらが出るということは伝えておるのじゃろう?」
「はい、その点につきましてはすべて御指示通りに」
「んむ、なれば問題なかろう」
冒険者ギルド側で抑えることが出来なくなれば、ワシらが王家が出ると言う話は通してある。
とはいえこれはお互いやりたくない手であるが、万が一を考えれば必要な手でもあろう。
しかしそれは果物を切るのにペティナイフではなく牛刀を振るうようなもの、出来る限り振るう機会がなければよいと文官たちに手を振って軽く応えるのだった……




