3372手間
野営地に戻ってきたクリスと騎士たちは、留守番をしていた騎士たちに囲まれ、クリスや自分たちの活躍を誇らしげに伝え、それに対し聞いている騎士たちは下品にならぬ程度に、やんややんやとはやし立てる。
そしてホブゴブリンの中でも巨大な個体から取り出した三つの魔石を見せれば、それを見た騎士たちがどっと沸き立つ。
特にワシと共に巨大な個体を見た騎士たちが、クリスを褒め称える。
「王太子殿下が跪いた奴の首を、その一太刀で以て斬り落とし――」
騎士の一人がクリスの功績を吟遊詩人もかくやという口調で語り始め、その側でクリスが柔和な笑顔に見せかけた困り顔でちらちらとこちらを見ているが、そういう風に見えるようにしたのだから、黙って受け入れろとばかりにワシは小さく頷く。
この調子なれば、この後彼らに与える長期休暇の折に、たっぷりの報奨金と共に大袈裟に彼ら自身、そしてクリスの功績を語り広めてくれるだろう。
その為にもクリスには、しばしこの大袈裟に語られている武勇伝を大人しく聞いてもらうほかない。
「神子様、この様子ですと、狩りの成果は上々だったようですね」
「んむ、あの大きな個体を三匹仕留めさせたからの、これ以上ないくらいであろうて」
「しかし、神子様の助力あってこそでありましょう二、彼らは何故その事について言わないのか」
「それを言うては自分たちの、ひいてはクリスの功績が霞んでしまうから致し方あるまい」
ワシの活躍も入れてしまえば、クリスや騎士たちの活躍が少なくなるから仕方がないことだ。
「それにしても、本当にホブゴブリンを根絶やしに出来たのでしょうか」
「いや、出来てはおらんぞ?」
「やはりそうなのですね。彼の語り口が、まるでホブゴブリンをすべて倒したかのような仰りようでしたので」
「まぁ吟遊詩人の話なぞ、そんなもんじゃろうて」
「では、残ったホブゴブリンはどうされるのでしょう」
「大体は…… あぁ、いくつか引っかかっておるようじゃな」
丁度いくつかの罠が発動したのを感じ、森を振り返ったワシを近侍の子らが不思議そうに見ている。
そして一個引っかかれば、クリスたちとホブゴブリンと対峙した場所から同じような距離にあった罠が次々と発動していき、随分とホブゴブリンは慌てていることを感じ、しばらくはこの森の狼たちが肥えそうだなと、くつくつと小さく笑うのだった……




