3371手間
手のひらほどの大きさの魔石が三つ、それを騎士たちが丁重に布で包みクリスが引き上げの合図を出す。
「ところで、残ったホブゴブリンからも魔石は採るのかい?」
「いや、小さい方はさしたる大きさではないじゃろうしな。それにこの後の事を考えて、狼どもに味を覚えさせておきたいからの」
巨大な個体は魔石を取り出すために燃やしたが、残る他のホブゴブリンはそのままだ。
本来ならば埋めたりして、狼などの肉食の獣を呼び寄せないようにするのだが、今回は敢えて呼び寄せる為にそのままにする。
「逃げたホブゴブリンをどうにかするために? 確かに肉の味を覚えさせれば、積極的に襲うようにはなるだろうが、早々効果は出ないだろう?」
「その為に、ホブゴブリンどもを弱らせるのじゃよ」
どうやってと問うクリスに、ホブゴブリンどもが積極的に逃げるように放った殺気で染みついたワシのマナに反応して、爆発するようにした魔晶石で弱らせると言えば、クリスは何故か苦笑いする。
「それは、色々と危ないんじゃないのか?」
「周囲に被害が出ぬように、さしたる威力ではないがの、足をある程度潰すくらいじゃよ」
「それはそれで危ないと思うが、まぁ相手が魔物だしな」
獣や森に被害が出ないよう、せいぜいうまく走れなくなる程度の威力に留めていると言えば、クリスはそうじゃないんだがと肩をすくめる。
しかし相手が魔物だから非道も何もないだろうと、肩をすくめる以上は特に何もその方法について聞くことは無かった。
「ともかく罠を張ったというならば、僕たちも立ち入らない方がいいかな」
「それは気にする必要はなかろう。仕掛けておるのは森の奥じゃからの、野営地からは歩いて数日くらいじゃ。じゃから引っかかるとか、気にする必要はないのぉ」
なのでクリスたちが気にする必要はないといえば、クリスは自分たちが引っかかることを心配していたのか、ほっと胸をなでおろす。
とはいえその心配は正しいかもしれない、たどり着けるかどうかはともかく、反応する条件はワシのマナなので、ワシはもちろんクリスも罠が発動する条件自体は満たしている。
なので場所云々よりも、近づかないようにした方がよいのは間違いない。
「ま、気が立っておるホブゴブリンが出るやもしれんからの、近づかぬ方が賢明なのは確かじゃ」
「そうか、じゃあ森の奥には近づかないように、後で命を下しておくか」
そんな風に野営地までの帰路でこれからの事をクリスと話していたが、特に何事もなく疲労困憊といった様子以外は無事野営地へとたどり着くのだった……




