3367手間
石斧が突然空中で弾かれたことが理解できなかったのか、再び石斧が飛んでくるが、それも再びワシが空中で撃ち落とす。
騎士たちから見ればすさまじい勢いで暗闇から石斧が飛んで来ており、ただの投擲故に風を切る音くらいしかなく、気付かぬうちに、例え気付けても防ぐのは難しい一撃だ。
だがワシからすれば投げた奴も含めて丸見えで、ゆっくりと狙いを付けて石を当てて撃ち落とせば良いだけ。
しかし、二本も斧を撃ち落とされては、向こうもこちらに撃ち落とされていると気付いたのだろう、だからといってどうする訳もなく唯々苛立ったのか、手近に居たホブゴブリンを掴み上げて、先程までよりも圧倒的な速度で投げ込まれてきた。
とはいえ石斧、要は投石と違い投げてきたのはホブゴブリン、やせぎすの成人男性程度の重さの肉の塊なので、大楯で防げばそう大きな怪我はしないだろう。
だがただの肉の塊とはいえアレは生き物だ、それが勢いよく大楯にぶつかり弾ければ、どうなるかなど想像に難くない。
「流石にこれはのぉ」
「大楯で十分防げると思うんだけれど」
「あの勢いでぶつかれば、確実に中身がぶちまけられるじゃろ、流石にそれは嫌じゃからの」
「あぁ、確かに……」
生き物の中身がぶちまけられる、それを聞いて嫌なことになると分からない者はいないだろう。
クリスも嫌そうに眉根を寄せて遠くを見ているが、それも致し方ない事だ。
「まだでかいのは見えておらんかえ」
「あぁ、僕たちの目には、まだ見えていないね」
「そうかえ。しかし、そろそろ突っ込んできそうじゃからの」
「なっ、クロスボウ構え!」
ホブゴブリン投げるのも効かないと見て、巨大な個体が走ろうと動き出したのが見えたのでクリスに警告すれば、クリスが慌ててクロスボウを構えるようにと号令を出す。
それを聞き騎士たちも慌ててクロスボウを構えるが、森の奥から響く地響きのような音と木々をなぎ倒す音だけが聞こえ、騎士たちは恐怖に体を硬直させる。
「少しでも勢いを削ぐんだ、見えなくていい、音の元に放て!」
そんな騎士たちの背を押すように少しでも恐怖を和らがせるために、音の元へと矢を放つようにクリスが命を下せば、彼らも限界だったのだろう次々と巨大なホブゴブリン目掛けてボルトが放たれていく。
しかし森の中、見えない相手に撃つのだ、殆どのボルトは木々に当たったり全く別の場所に飛んでいくが、何本かはホブゴブリンに突き刺さり、一瞬怯んだが怒りに油を注いだのか、ますますホブゴブリンは猛り狂ってこちらへと一直線に走ってくる。
「怯まず撃ち続けろ!!」
森の奥から響く轟音に比べると、クロスボウの音はあまりにも小さい。
銃の発砲音であればもっと士気を鼓舞できたかもしれないが、アレはクロスボウ以上に世には出せないし、何より撃てる者が今のところドワーフくらいしかいない。
ないものねだりをしたって致し方ないし、何より今更だ、幸い脚に当たったボルトのお陰で多少は勢いは削れたが、それでも多少でしかなく段々と近づいてくるホブゴブリンに騎士たちが段々と焦りの声をあげはじめるのだった……




