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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで皇国へ
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319手間

 選定の儀とは、本来一月以上にも及ぶものだがその辺りは一般的には知られてはいない。

 人々が知っているのは選定の儀の最後の最後、お披露目だけである。

 もちろん詳しくは知らないだけで、お披露目以前に社で何かやっているのだろう程度は分かっているらしいが。


「本日はそのお披露目をしていただきたく」


「昨日の今日であろう? もう幾日か布告してもよいのではないかえ?」


 ワシがここに着いたのが昨日、それで今日お披露目をしますとはちと性急過ぎないだろうか。


「数日前より神子様がお着きになられた翌日に、お披露目をすると皆々に広く伝えておりますので」


「それは何とも…気の早い話じゃのぉ」


 巫女たちにそのお披露目のための着物を着付けられながら、ナギにこの選定の儀についての話を聞く。


「選定の儀ですが、まず一月ほどこの社にて断食を行い…」


「まずがそれかえ…」


 ワシの様にマナを溜め吸収する能力に優れている者であれば、一月くらいは訳ではない。


「しかし、それでは下手をすれば死人が出るのではないかえ?」


「もちろん私ども巫女が見守っておりますので、それに断食と申しましても何も食べず何も飲まずではございませぬ。日が落ち灯も落とした中であれば椀一杯の米と一杯の水であれば口にすることは許されております」


「ふぅむ、それでもその程度なのじゃな。神子になるとはかくや辛いものとはのぉ、やはり楽をして神子に成るのは良くないのではないかの」


「選定の儀と呼んではおりますがその本質は尾の数を増やす修行のようなもの、断食もフガクから吹き下ろすマナをその身に宿しやすくする為に行っているに過ぎませぬ」


 食べ物からマナを取り込めないのなら、あとは呼吸でマナを取り込むか体の中で生み出すしか無い。

 そうするとどうなるか…折れた骨が強くなるように体は必死でマナを取り込み生み出そうとする。

 それを続ければ、理論上はマナを扱う能力が向上するだろう。そしてその結果が獣人の場合尻尾が増えるということかもしれない。

 荒行ではあるが、なるほど断食はマナを扱う量を増やす修行には中々いいかもしれない。もちろん上昇する余地のある者に限るだろうが。

 だが、そうするとカカルニアの獣人はここに居るものより、圧倒的にマナを扱うのは上手いはずなのだから尻尾がもっと多くてもいいはずだが…。

 もしかすると後からというのが大きいのかもしれない、そして食べ物にしろ空気にしろあらゆるモノに含まれるマナの量が多いカカルニアでは、断食したところでさして効果が無いのだろう。


「じゃがワシはここに来て一日と経っておらぬぞ?」


「神子様が一日でその身に取り込むマナの量は、私どもが一月かかろうとも足り得ぬでしょう。その身が生み出すマナはこの街の者全てのマナを集め一巡りかけようとも、小指すら届かぬほどでしょう。それほどマナに女神様に愛されてる御方に誰が文句をいいましょうか」


「そうかえ…それにしてもよく人のマナなぞ分かるものじゃな?」


「何をおっしゃいますか、神子様も見えておられるのでしょう? いえ、それに比べれば私のものなぞ…長くここに居り歴代の神子をみておりますので、ただ何となくといった次第ですから」


「ふむ、それでもマナを見ることが出来るとは、その努力素晴らしいことじゃて」


「これは…身に余るお言葉光栄でございます。何時かこの身が大地に還る…その際はお褒めに預かったと歴代の神子、巫頭に自慢しとうございます」


 おもちゃを貰った子供の様な目で見られてしまっては、ワシはそんな大層な者じゃないなど言えないではないか。

 そんなナギを何も言わないまでもニヤけた顔で見る巫女たちに咳払いをして、「さっさと終わらせなさい」と恥ずかしそうにナギが一喝する。

 するとニヤけながらも、手早く巫女たちがワシの着物や尻尾を整えていく。


「失礼しました神子様、既に街の皆も集まっている様子」


「ふむ、お披露目というからには前に出ねばならぬのは分かるが、他になんぞするようなことでもあるのかえ?」


「はい、お披露目の際に街の者が、選りすぐりの品を奉納することになっております」


「奉納とはもしや…ワシに対してかの?」


「その通りでございます。鍛冶屋であれば今打てる最高のものを、機織であれば最高の布を…神子様の目を通して女神様に各々の努力を見ていただこうと…そういうことにございます」


「ふむ、であれば真剣に見ねばのぉ」


 そういう事であれば面倒臭がらずにしっかり見ねばならない、言うつもりも無いがワシの目を通してなら女神様にしっかり届くであろう。

 一つ大きく頷くと、ナギに促され社の入り口今はしまっている襖の手前に置かれた壇上に向かうのであった…。

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