3362手間
クリスもやってきてクロスボウも持ってきたとしても、だからといってすぐに出発できるわけではない。
馬車に乗ってきたクリスはともかく、随伴してきた騎士たちはそれなりに疲弊しているであろうし、クロスボウもすぐに使える状態という訳でもない。
弓と同じようにクロスボウも常に弦を張っていては、ゆるんだり痛んだりしてしまう。
更に保管や運搬を効率的にするために、ある程度のパーツに分けているので組み立てる必要もある。
なのでとりあえず今日は騎士たちの休憩と、クロスボウの組み立てに費やすので、出発はまだまだ先という訳だ。
「ところで、ホブゴブリンの群れを追い立てていると言っていたが、様子はどうなってる?」
「ここにほど近いところへ釘付けにしておる」
「すぐに襲ってくるようなことは」
「流石にそれほど近くにはやっておらんし、向こうもまだこちらの存在に気付いては、多分おらんじゃろうな」
「セルカがそういうのならば、安全かな」
こちらは相手の位置を把握しているが、向こうはこちらの位置を把握していない。
攻める側からすれば、これほど楽な戦もないだろう、しかも相手は体格だけが頼みのホブゴブリンだ。
こんな状態で手軽に戦功を立てれるのだから、クリスと共にやってきた騎士たちは、長距離の移動の疲れこそ見えるものの意気軒昂で士気は非常に高い。
「士気が高いのは良いが、むやみに刺激したり勝手な行動はせんじゃろうな」
「流石に僕たちが居る状態でそんなことはしないだろうし、そういった軽率な行動をする者は連れてきていないからね」
手軽に戦功を挙げれるからと、経験の浅い者や軽挙妄動が目立つような者は、当然連れてきてはいないとクリスは断言する。
確かに言われてみれば意気軒昂ではあるが、しっかりと統率が取れており、森の奥をむやみやたらに気にするような者も居ない。
「それならば安心じゃな。して、狩りの時間じゃが、クリスらの準備が出来次第か、向こうが変な動きをしたらで良いかの」
「もちろんだよ。といっても明日以降になると思うけれど、ホブゴブリンの動きはどうやって把握するんだい?」
「奴らが留まっておる傍に魔晶石を埋め込んであるからの、変な動きをすれば魔晶石の発するマナに引っかかるという訳じゃ」
「なるほど、セルカにだけ聞こえる鳴子という訳か」
「端的に表せばそうじゃな」
クリスも一応隠してはいるようだが、騎士たち同様に意気軒昂というよりも、浮かれているような気配を感じる。
巨大な魔物を打ち倒す、確かに心躍る場面であろうし致し方ない、なにがあってもワシが居れば安心であるし、特に釘を刺すこともなくクリスの様子を眺めるに留めるのだった……




