3359手間
巨大なホブゴブリンと遭遇した場所をあっという間に通り過ぎ、静かになったところで立ち止まり、薄くマナを伸ばすように広げてゆく。
これは鹿、これは狼だろうかとマナに引っかかったモノを区別していると、ひと際大きなモノにマナが当たったのを感じた。
「ふむ、これじゃろうな」
その巨大な物の近くには騎士たちとは違うが同じ大きさの物があるのを感じたので、まず間違いなくこれがホブゴブリンの群れだろうと判断し、マナを広げるのを止めて反応があった場所へと向かう。
そうして反応があった場所に行けば、予想通りホブゴブリン群れが居り、その中には巨大なホブゴブリンもいたのだが、なぜかみな項垂れ座り込んでいた。
まるで動くのが億劫だと言わんばかりの姿に首を傾げるが、ワシには関係ないと巨大な個体以外のホブゴブリンをすべて焼き尽くす。
動くのが億劫だと項垂れていた巨大なホブゴブリンも、流石に突然消え去った同胞に慌てて立ち上がるが、自分の置かれた状況を把握するより前にホブゴブリンの胸から巨大な黒い腕が飛び出る。
背後から魔石の反応めがけて魔手を突き立て引き抜くと同時に、巨大なホブゴブリンの身体が倒れるよりも早く他のホブゴブリン同様に焼き尽くす。
「ふぅむ…… マナの量の割には、なかなかに立派な魔石じゃな」
魔石についている血や肉を燃やしてから魔手を消し、掌の中に残った魔石を見れば、そこそこ大きな水晶ほどであり、巨大なホブゴブリンが持つマナに比べれば異常と言っていいほどの大きさだ。
「これだけ大きな魔石を持っておるから巨大化したのか、巨大化したからこれだけ大きな魔石を持っておるのか…… まぁどっちでもよいな」
ともかく、これで森の奥にはまだホブゴブリンが居ることと、巨大なホブゴブリンを狩ればそれなりの魔石が手に入ることが分かった。
この様子なら探せばまだまだ居そうではあるが、とりあえず群れを一つ潰しておけば大丈夫であろうと踵を返し野営地へと戻る。
「王太子妃殿下、一体どちらに」
「ちと狩りに行ってきたのじゃよ」
ワシが戻ったことに気付き駆け寄ってきた騎士に、ひょいと魔石を投げ渡せば、彼は慌ててそれを受け取り目を見開く。
「これは、魔石ですか」
「うむ、巨大なホブゴブリンから取ってきたものじゃ」
「これほど大きなものは、初めて見ました」
「とりあえず、これが二、三個あれば功績としては十分じゃろうて」
「王太子妃殿下がすべてご用意するのですか?」
「いや、それはともかく、後はお膳立てだけじゃな」
流石に全部用意するのは意味がないと言えば、それもそうかと頷き、この魔石はどうするのかと聞いてきたので、とりあえずは保管しておこうと指示を出すのだった……




