3357手間
巨大なホブゴブリンと遭遇してから更に数日、ようやく本来であれば帰りの為の馬車とここに残る騎士たちの為の物資を載せた荷馬車がやってきた。
「交代と増援の騎士、それに伴う物資など手配も恙なく、そしてともに王太子殿下もお越しになられるとのことです」
「ふむ?」
巨大なホブゴブリンと遭遇の報告などを持たせた早馬を街に送っていたのだが、その答えを荷馬車の護衛をしていた騎士が持ってきており、それをワシが受け取ったのだが、恙なく手配が済んだのはともかく、クリスが一緒に来ると言う報告にワシは首を傾げる。
「増援は大規模になりかねませんので静かに動かすことは出来ませんから、新種の魔物が現れたと公表し、その討伐の為に王太子殿下も同道なされると民に向け喧伝する、とのことでした」
「なるほどのぉ」
ホブゴブリンという新種の魔物が現れたのだ、秘密裏に処理できればよかったが、ゴブリンの繁殖速度を考えればそれも難しい。
なので警戒を促すために新種の魔物が現れたと公表し、その不安を打ち消すために魔物討伐に王太子自ら出陣すると謳った訳か。
「まぁよい。して、道中はどうじゃったかの」
「幸い、道中では魔物との遭遇もなく」
「それは僥倖。しかし、それでは他の騎士やらに、新種の魔物の信憑性を疑う者が出てくるのではないかえ」
「私どもの見た範囲でのことになりますが、王太子妃殿下、御自らのご報告ということもあり、騎士はもちろん、貴族や商人も含め、疑義を呈する者はおりません」
「なれば結構」
まぁ増援をすんなりと手配できたのだ、内心はともかく表立ってなんぞ言う者は出なかったのだろう。
恐らくそんな事よりも、ワシが出ているのだから「クリス自ら出る必要はないのではないか?」そんな疑問の方が大きいかもしれない。
だからこそ今回のクリスの出陣ということだろう、荒事はワシに任せっきりではなく、ちゃんと自分も表に立つのだと。
「であれば、やはりワシもまたしばらくここに滞在じゃな」
「では馬車などは、おぬしらには悪いが一度戻って貰おうかの」
「かしこまりました」
ワシはまだ戻れないので馬車は不要、空荷となった荷馬車も不要なので共に一度街に戻すと指示を出す。
わざわざ指示を出さずとも、ワシが馬車に乗っているか否かの違いぐらいで、荷馬車も戻す予定であったのだが、ワシが戻らない以上は改めてそこも含めて指示を出しておかねば、そこを突っついてくる不届き者が出て来るやもしれない。
まぁそんな阿呆は流石に今、この街に居ないだろうが普段から気を付けておいて損はないと、そんなことを内心考えながら最敬礼をし、早速帰りの支度をし始めた騎士たちを眺めるのだった……




