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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで皇国へ
338/3469

318手間

 ナギがようやく話し終えると夕餉の頃に差し掛かっており、彼女はそのままスズシロら侍中と巫女たちを連れて夕食の準備に行ってしまった。

 何もワシ以外の全員を連れていく必要などと思ったのだが、この凸の字を横に引き伸ばしたような建物。

 本来であれば神子以外は、毎朝の掃除や神子の世話、もしくは特別な行事の時を除き立ち入りが禁じられているという。

 屋根の高さが変わる境にある四本の柱以外は、四方の壁まで視界を遮るものがない広々とした空間。


「うーむ、何とも冷え冷えしたところじゃのぉ」


 夕餉の頃だろうからか、わずかに聞こえていた喧騒も今やはるか遠くワシのつぶやきも響くこと無く水に溶ける雪のように消えていく。

 そんな場所だからだろうか、それとも広く一面板張りで部屋と言うには広すぎるからだろうか日も差し込まぬここは肌寒い。


「肌寒さなぞありえんがのぉ…」


 マナをその身に溜め込めば寒暖すらも弾き返す。ワシのもつチョーカーはその特性を利用したもの…だろう多分。

 道具としてその力を発露するなら兎も角、人の身でそこまで行こうとすると相当なマナを身の内に宿さなければならない。


「とはいえ…普通の者には普通に寒い場所じゃろうし、神子が苦行を是とするのでなければ何ぞ温まるものでも…」


 広々とした社を見渡せば、ぽつんと四つの柱を線で結んだ中央に畳の間があるのを見つけた。

 確かに板張りの上にずっといるのは辛い、その為のものだろう四つの畳でロの字を作りその中央の隙間を半分に切った畳で埋めた四畳半。

 そこに座れば、僅かばかりに寒さが緩んだ気がした。


「ふぅむ…この畳の置き方、真ん中になんぞ埋めてはおらんかのぉ」


 寒さが緩んだといえど、元は寒さもそれも気の持ちよう火にでも当たらなければ寒さは消えぬ、ならばここに囲炉裏でも無いかと中央の畳を持ち上げる。


「おぉ、予想通りじゃ…ふーむ、これは堀炬燵にでもするつもりなのかの」


 ロの字に置かれた畳の中央には穴が空き、その穴は畳に座り足を垂らせば丁度よい深さ。

 そして穴の中には四方で四人、足を入れても隙間が開く程度の大きさの火鉢が置かれていた。


「灰はあるが炭が無いのぉ…」


 時期ではないのか、それとも神子が居なかったからなのか火鉢の中には綺麗に均された灰があるのみ。

 キョロキョロと周りを伺い、誰も見ていないことを確認するしこっそりと腕輪に収納してある炭を取り出し、火鉢の中に置くと法術を使い炭に火を点ける。


「うーむ、やはり一発で火が点くのは良いのぉ」


 ここまで来る旅の途中、ワシに手間を掛けさせるは大罪とばかりに徹底的に雑事をワシにやらせなかった。

 侍中たちは、種火を紅か何かのように専用の容器に入れて持ち歩いていたので、火打ち石ほどの苦労はなかった。

 それでもやはり法術での点火に比べたら苦労も多く、天候によっては半刻も点かないことすらままあった。


「あぁ…温いのじゃぁ」


 せっかくの着物が焦げぬよう袖をはしたなくない程度にめくり、両手を火鉢に突き出して暖を取る。

 しばらく火の温かみを楽しんでいると、社の入り口をトントンと叩く音が届いてきた。


「ふむ…?」


 叩かれているのは社の正面、侍中たちが大層なごちそうをもって両手がふさがり…なんて理由でも無いだろう。

 ましてや参拝をするものがその様な行為をするはずもない、なれば誰かと興味が湧きいまだ叩かれている襖を開けて外を覗く。


「ん…? 誰も居らぬの」


 不思議な事だと首を傾げていると、足元にするりと何かがまとわりつく様な感覚。


「おぉ…おぬしじゃったか、今まで何処に行っておったのじゃ?」


 そこには、こやんと鳴きながら足元に擦り寄る狐の姿。

 境内の門での一悶着の頃にはまだ牛車の中に居たはずだが、いつのまにやら姿を消していた。


「まぁ無事なようで何よりじゃな」


 その後、夕食を持ってきたナギと巫女が狐がいることに、良い意味で大騒ぎとなりながらも何とか夕食を食べ終え。

 翌日よりパフォーマンスとしての選定の儀を行うと唐突にナギらに継げられたのだった…。

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