3355手間
何故あの巨大なホブゴブリンが暴れたのか、流石にそれは完全に消滅させてしまったので分からないが、少なくともこの周辺にはあの一匹しかいないことを確認しなければならない。
ワシは騎士たちを護衛に残し、近侍の子らに巨大なホブゴブリンなどの痕跡を探すように指示を出す。
「他にもいるでしょうか」
「居らん方がよいが、居ると考えて動いた方がよいじゃろう」
居ないと楽観的に考えるよりも、居ると身構えて行動した方が良い。
それで犠牲になるのは無辜の民なのだ、なれば慎重すぎるようなこともないだろう。
「神子様、周囲にはそれらしい痕跡はありませんでした」
「ふむ、御苦労じゃったな。しておぬしらにも聞くが、共食いやらを見た際に、森の中でこのような破壊跡は見ておらんのじゃな?」
「はい、このようなものを見るのは初めてでございます」
騎士たちに改めて、森の中で巨大なホブゴブリンが移動した跡を見てなかったかと聞けば、彼らは皆揃って首を横に振る。
「普段はこれほど痕跡を残すことなく動けるのか、それとも森の奥などから最近やってきたのか……」
「共食いはあの大きな奴とは、関係がないのではないでしょうか」
「その可能性もあるか、共食いを発見した跡に後日向かった者はおるかの」
「私どもが向かいましたが、何かが暴れたりといった跡はありませんでした」
「ふむ……」
正直言って、あの巨大なホブゴブリンは知能が高いようには見えなかった。
であれば、腹が減り過ぎて癇癪を起して暴れて共食いをしたと言った所だろうか。
暴れたその場で食べずに、わざわざ少し離れた場所まで移動したのが解せないが、癇癪を起こした者の行動など、得てしてそんなモノだろう。
「ともかくじゃ、この周辺に痕跡がない以上、ひとまず討伐は出来たとして戻るとしようかの」
「かしこまりました」
近侍の子らが他に痕跡はないというのならば、その言葉は素直に信用してよい。
であればこんなホブゴブリンが食い荒らされた生臭い場所に居る必要もないと、念のために周囲を警戒しつつ野営地へと戻るのだった……




