3353手間
件の異常行動と巨大なホブゴブリンを見たという場所へ、その二つを目撃した騎士たちを案内役に向かえば、残念ながらそこにホブゴブリンは居なかったが、あからさまな痕跡自体は残っていた。
「ふむ、ここで共食いやらをしておったのは、間違いないようじゃな」
ただ明らかに何かが暴れたような痕跡から、弱った個体を共食いしていたというよりも、力の強い個体が暴れてその結果、死んだ個体を食べていたといった所であろうか。
さらに周辺の木々の高い場所の枝も折れていることから、暴れている個体の中に、報告通りの巨大なホブゴブリンが居たと思われる。
「これだけ派手に暴れておったら、追いかけるのは容易いのぉ」
何を思ってここから離れたのか、ホブゴブリンは灌木や細い木をなぎ倒しながら逃げ出しているので、追う事は誰だってできるだろう。
ホブゴブリンの行き先を示している、無残にも薙ぎ払われた灌木や細い木であるが、人の足ほどの太さの生木もへし折られており、通常のホブゴブリンよりも圧倒的な膂力があることが窺え、騎士たちが接触せずに情報だけ持ち帰ったのは正解だったと分かる、
「それにしても、今までようこれだけの巨体が隠れておったのぉ」
「装備の都合上、森の奥には踏み入っておりませんので、そこに潜んでいたのやもしれません」
「なるほど、そこに居ったのであれば、知らぬのも致し方ないのぉ」
森の奥に行くのであれば、それ相応の装備や準備というものが必要になる。
まずは奥に向かうに必要なルートの選定、水の確保や安全な休憩場所、日を跨ぐのであれば野営地の選定などなど。
そこに必要な食糧や狩りをするのであれば武器等など、奥に奥に進もうとすればするほど、必要とする物は増えてゆく。
当然そんな準備が必要なことが今できる訳もなく、森の浅い場所しか行けないのは致し方ない事だ。
「おっと、逃げつかれでもしたのかの」
「あれが……」
森を荒らしできた道の先、共食いの際に反撃を受けたのか、全身傷だらけで落ち込んでいるように座り込んでいる巨大なホブゴブリン。
背を丸めて座っているので正確な大きさは分からないが、背を丸め座っている状態で既に騎士たちより大きいので、その巨大さは推して知るべしといったところか。
「何をしているのでしょうか」
「音からして、何か食っておるようじゃの」
こちらに背を向けているので、何をしているのか分からない騎士たちは純粋に疑問を浮かべているが、音が聞こえているワシと近侍の子らは奴が何をしているのか分かってしまい、そして何を食べているのか、そんなのは分かり切った事であり思わず苦虫を嚙み潰したような渋い顔をするのだった……




