3351手間
腹を空かせて動きの鈍くなったホブゴブリンなどは敵ではなく、あっという間に殲滅して戻ってきた。
そもそもワシが感じていた気配はさほどの数ではなかったので、たとえ気力十分なホブゴブリンであっても敵うことはなかっただろうが。
ともかくこれである程度は、この周辺にまだホブゴブリンが残っていることは確定だ。
しかし、肉の匂いにのこのこと釣られて出てくるあたり、まだ幻術の中に逃げ込むことは無いやもしれない。
何せあの中には食料に出来そうな獣も居ないのだ、腹を空かしている奴らが好き好んで引きこもるとは思えない。
「やはりしばらくは様子見が良さそうじゃのぉ」
「あんなもの相手に、そこまで慎重になる必要があるのでしょうか?」
「ワシが心配しておるのは、あれらが逃げ出して、どこかほかの場所で増えることじゃ」
ゴブリンは存外縄張りに固執する性質を持っている。
それもあってあいつらは自分の縄張りを荒らす奴として、人を積極的に襲うのだが。
その性質がホブゴブリンにもあれば、早々に縄張りを放棄して逃げ出すことは無いはず。
もちろん下手に追い詰めれば、さしものゴブリンも縄張りを捨てて逃げ出すので、ホブゴブリンも同様と考えて慎重にやらねばならない。
とはいえワシより普段は魔物と接する機会が多いのだ、そこは騎士たちに任せていれば問題ないだろう。
「さてホブゴブリンどもはどの程度残っておるかのぉ」
巣の中に残っていた数、騎士たちが上げて来た報告にあった数を考えれば、もうほとんど残ってはいないはず。
とりあえずワシは馬車が来るまで待って、幻術の中に逃げ込んだ奴らを狩ったあとは街へ戻る必要があるが。
「ところで、先程倒した奴らで、なんぞ変な事でもあったかえ?」
「いえ、報告によれば今まで遭遇したホブゴブリンとさして変わらなかったそうです」
「ふむ、まだ腹はそこまで空いておらぬか、何かエサを確保する当てがあると言う事かの」
肉が焼ける匂いに釣られてきたくらいだ、空腹だと思っていたがそうではないのだろうか。
となると、どこか巣となるほどの規模ではなくとも、どこかに拠点を作っている可能性があるが。
それも含めて、やはりしばらくこの周辺に騎士たちを駐在させる必要があるかと、騎士の報告を聞きながらどの程度の期間置いておくかなどのそろばんをはじくのだった……




