3348手間
昼過ぎには三匹目の獲物を担ぎ野営地へとたどり着いたところで、狩人の下に待機していた騎士の一人が駆け寄り、彼から鹿を受け取り戻ってきた狩人を労わる。
「大丈夫か?」
「はい、意外と重かっただけですので」
近侍の子らは多少は汗をかいているものの、狩人ほどは疲弊はしていない。
これは狩人が貧弱であるというよりも、単純に彼が力み過ぎていたせいだ。
途中で近侍の子が変わろうかと言った時も、彼は力んだ様子で拒んでいたので、普段よりも無駄に力が入っていたのだろう。
「そうか、それで何か狩りの参考になりそうなことでも、見られたか?」
「いえ、何も」
「何も? 狩りをしている姿を、王太子妃殿下は見せてはくれなかったのか?」
「見せてはくれましたが、正直なんの参考にもならないと言いますか――」
狩人がその目で見たことを騎士に伝えるが、周囲で聞いていた他の騎士たちも含め理解できなかったのか、しきりに首を傾げている。
「ナイフで弓でも狙えないような距離の鹿を仕留めた?」
「小石で鹿の頭を砕いた?」
狩人としては一直線に、獲物の下に行ったことが一番信じられなかったようだが、騎士たちは仕留め方が理解できなかったようで、狩人のいった言葉をそのまま口にしている。
まぁ騎士からすれば獲物を探す難しさよりも、武器を扱う難しさの方が理解できるからであろうが。
「なにか、こう、投げ方になにか、そう、なにかなかったか?」
「暇つぶしに、すぐそこの壁の的へと、ナイフを当てるかのような気軽さで投げていたのに、気付いたらもう鹿の首へと正確に刺さってたんだ、そんなモノ分かるわけがない」
騎士たちも理解できないことについて聞くには語彙が足りなかったか、非常に曖昧な聞き方になり、狩人も狩人で見たままを言っているからか若干言葉が乱れている。
「そういう事は、やることをやった後でやろうではないかえ」
「はっ。申し訳ございません」
混乱している彼らに対し、ワシはパンパンと手を鳴らして意識を引き戻させ、さっさと皮をはいでしまおうと指示を出せば、狩人は考えることから逃げるかのように素早く再び鹿を受け取り、実に慣れた手つきで鹿から皮を剝いでいくのだった……




