3344手間
夕方になりホブゴブリン狩りから戻ってきた騎士たちに交じって、なにかを二頭抱えた近侍の子らが帰ってきた。
「このような時間になり、更に鹿を二頭しか仕留めれず、申し訳ございません」
「よい、狩りそのものに時間がかかったわけではなかろう?」
「はい、既に処理は済ませております」
近侍の子らの言う通り、鹿は既に首を落とされ皮は剥がれ、内臓も取り除かれており、後は切り分けて焼くだけといったような状態だ。
これだけの処理をしたのだ、狩りそのものは陽が天頂にたどり着くより前に終わっていたのだろう。
本当ならしばらく置いた方が上手いのだが、すぐに食うのであれば肉が堅くなるより前に焼いた方がいいだろうと、近侍の子らはすぐに鹿肉を捌きはじめる。
「肉はすぐに食べないと、硬くまずくなるのではないですか?」
「確かにそうなのじゃが、またしばらくすると柔らかくなるからの。さらにそこから置くと旨くなるのじゃが、しっかりとした氷室やらで置かんといけんからのぉ」
「なるほど…… 我が家には大きな氷室が無かったので、それは無理だったのでしょう」
狩りを趣味としてる騎士が、ワシの呟きを聞いたのかそんな風に聞いてきた。
たしかに半日くらいで肉は硬くなるが、さらにそこから一日二日置くとまた柔らかくなる。
そしてそこからしっかり冷やした氷室で数日置くと肉の旨さが引き立つのだ。
「とはいえ色が悪くなった表面やらを削らねばならぬからの、狩り生業としておる物からすれば量が減るのじゃ、やりたがる者は少ないじゃろうて」
「それで、彼からもそんなやり方を聞かなかったのですね」
ちらりと狩人の方を見るが、一介の狩人が鹿肉を吊るせるほど大きな氷室を持っている訳もなく、大体がその日の内に肉屋に卸しに行くだろう。
ならば肉を置いて旨くする方法など知るわけもなく、仮に置くとしても塩やらを使った干し肉を作った方が手軽で確実だ。
「鹿の干し肉ですか、硬くて私は苦手なのですよね」
「ふむ?」
どれだけ質の悪い干し肉を食べていたのだろうか。
保存性を最優先にして、鹿肉ではないが石の如く硬くなるまで干した物もあるにはあるが、ワシに喰えない物などないので、あれはあれで味が濃厚で美味かった。
「石のように固く……? どうやってそれを食べるのですか?」
「ナイフなどで削って、スープに入れて飲むらしいのじゃ。今思えば、ドワーフが石を食うのも似たような感じなのかのぉ」
石のように固くはあるが正しく食べ物であったのでワシも食えたが、今にして思い返せば、あれはドワーフの食生活を体験していたようなものだったのかと、ワシは感慨深くなるのだった……




