3343手間
近侍の子らは一日休息を取り、翌朝早くより弓を手に森の中へと出発していった。
軽く気配を探ってみるに、ちらほらと鹿くらいの大きさの生き物が戻ってきており、彼女たちの狩りの腕ならば成果は期待できるだろう。
「初めての森で上手くいくのだろうか……」
「彼女たちなれば、なんの問題なかろう」
同じく早くに起きて狩りの準備をしていた狩人が、先に出発した近侍の子らを横目で見ながら、口の中で転がすように誰に聞かせるでもなく呟いた言葉に、まさかワシが反応するとは思っていなかったの、手にしていた弓を危うく取り落としそうになり、慌てて両手で落ちそうになった弓を支える。
「け、決して侮ったりなどという意図はなく」
「よい、餌場も分からぬ中で狩りに対する懸念はよく分かるからの」
そもそも思わずであろう呟いた言葉に嘲りの色はなく、むしろ心配しているような声音だったので、ワシも咎めるようなことはしない。
むしろ狩人であるならば当然懸念することであるので、その程度の事で気分を悪くすることなぞない。
初めての森というのは、まずもって何が居るのかが分からない、獲物がよく通る場所、よくいる場所なども知らないので、そもそも獲物に出会えるか自体が怪しい。
いくら狩りの腕が上手くとも、大前提として獲物に出会えなければ全く意味がない、その点獣人にはヒューマンよりも取れる選択肢は多いので、そういったことも少ないのだが。
「ま、獲れんでも問題はないがの」
別に獲れなくとも彼女たちを責めることなどありはしない、そもそもある程度の食糧などはここにあるのだし、肉を獲らねばならぬほど切迫している訳でもない。
とはいえ食糧の中に肉があるがそれは保存優先の塩漬け肉、新鮮な肉があった方が士気が上がるので、やはり手ぶらで帰ってくるよりも、獲物をしとめて帰ってくる方がありがたいが。
「明日はワシが行くかのぉ」
「もしよろしければ、その時に私も同行してもよろしいでしょうか?」
「ふぅむ? まぁ良かろう」
狩人の突然の提案にワシはまつ毛をなぞるように視線をくるりと一周させて少しの間考え込む。
もともとワシ一人で行くつもりだったが、そこに人が増えたところで問題ない、とはいえ二人きりというのは問題なので、今日の狩りに行かなかった近侍の子らにもついてきてもらえればいいだろう。
「とはいえじゃ、ワシに同行したところで、何の参考にもならんと思うが」
「それでもやはり、人の狩りというのは興味がありますので」
基本的に狩りなんてものは単独でやるものだ、だから人の狩りを見る機会もないであろうし、興味があるというのも分かる。
しかし、ワシの場合は罠でも弓でもなく、ナイフ一本でやるある意味最も野生に近い狩りなので、彼の参考にも何もならないと思うが、まぁそんなことは言っても分からないであろうし、ついてくる分には問題ないと同行に許可を出すのだった……




