3338手間
遺跡に火の玉を仕掛けながら洞窟へと出ると、その半ば辺りでふと足を止める。
この洞窟はどれほど時間を掛けたかは知らないが、恐らくホブゴブリンが外に出る為に掘りぬいたものであろう。
なんでそんなことをしたのか、何よりどうしてほぼ一直線に見えない外を目指せたのか、とはいえホブゴブリンに話を聞けない以上はずっと謎のままであろうが、けれども今はそんな事よりも問題なのはここの洞窟の強度だ。
触った感じは比較的柔らかそうではあったが、梁などの支えがないにもかかわらず崩れていないところを見るに、随分と頑丈なのであろう。
そうなると崩すのが難しくなるが、崩すことそのものは容易であるが、それでは他に被害が行ってしまう。
「火力を上げれば崩すのは簡単じゃが、この辺り一帯を吹き飛ばすのは流石にのぉ」
いやしかし、もしかしたら奇跡的にギリギリ保っているだけで、突けば簡単に崩れるような状況かもしれない。
そうなると下手にここで簡単に崩れるようにと、手を出してしまっては危険か。
「まぁ、獣もこの辺りにはおらんし、ここは崩れんでもよいか」
見た限り一本道でホブゴブリンも居ない、なればホブゴブリンがここを巣にすることもないであろうし、周辺のホブゴブリンも騎士たちに狩りつくされているだろう。
例えここの幻術が消えて獣が戻ってきたとしても、魔物がここを住処にするよりもマシだ。
であればと洞窟の壁を崩す程度の威力に抑えた火の玉を設置しながら外に出ると、周辺に獣が居ないことを確認してからパチンと指を鳴らして仕掛けた火の玉を爆発させる。
火の玉が弾ける音から数拍置いて、地の底から振動が響いて遺跡が崩れてゆくのが分かる。
「うむ、これで一先ずは安心じゃな」
これであの遺跡のホブゴブリンはほぼ全滅であろうし、万が一生き延びていたとしても、再び外に出てくるのはまた長い時間が必要になるはずだ。
しばらくその場に待機していたが、特に追加で崩れるような音も振動もないことを確認してから、腕輪より金属片と円筒、そして麻袋を取り出して金属片を袋に詰め、円筒を肩に担いで近侍の子らの元へと戻る。
「ふむ、幻術は消えておらんようじゃし、やはりホブゴブリンや遺跡由来ではなさそうじゃな」
近侍の子らや騎士たちが同じ場所で待機しているのを見て、幻術はまだ効果が続いているのだろうと声をかけてみれば、案の定彼女たちは明後日の方向を探すものだから、この幻術は本当にここに何かの拍子で現れた奇跡的な効果なのだろうと判断する。
「さて、これでワシの姿が分かるかの」
「神子様! 分かっておりましたが、やはりお姿をしっかり見られると安堵します」
「おぬしらから見て、どういう風に見えておったのじゃ?」
「急に消えたかと思いましたら、何と言いますか、声は聞こえるのに聞こえてくる方角が分からないというのが一番近いでしょうか」
「声が反響してというのもまた違いまして。ところで、その抱えている物はなんですか?」
「ん? あぁ、これはドワーフたちへの土産じゃよ」
明らかに変なものを担いでいるワシの、土産だという一言で納得している近侍の子らに騎士たちは驚いて目を白黒させていたが、何かを諦めたのかその反応以上のことはせず大人しくワシに続いて野営地へと戻るのだった……




