3337手間
この遺跡は柱などが異常に丈夫なのか、それともこれも魔導具か何かの一種なのか、ある程度の壁と柱以外が殆ど崩れたかそもそも最初から存在しないのか、かなり広い空間へと出てきたが、そんな広い場所だ、かなりの数のホブゴブリンがたむろしていたが、やつらが気付くよりも先に素早く全て焼き払ってゆく。
「ここは何なのじゃろうな」
まるで染めた布を干すかのように立てかけられた円筒と、それをホブゴブリンどもがどうにかしようとしたのか、円筒が乱雑に倒れているのが目立つが、それ以外にもそこに何かあったのであろう残骸の山がワシとしては気になる。
円筒は今に至るまで、その殆どが形を保っているが、ここにあった何かは円筒ほど丈夫ではなかったのだろう、完全に錆の塊と化しており、ホブゴブリンどもがやはり金属片やらを取り出したのだろう、完全に元の形が判別できないくらいまで崩れ落ちている。
「うぅむ、中まで完全に錆びておるようじゃな」
錆の山からひとかけら、手のひらより大きな破片を取り上げ、その表面を親指で軽くこすってみるが、ボロリと表面が崩れたことに倣うように、破片自体が渇いた土塊の如くボロボロと崩れ落ちてゆく。
これはもう錆というよりも、完全に朽ちていると言った方がいいだろうか、朽ち木枯れ木の類の方がまだ丈夫だと思えるほどだ。
「これではもう、ドワーフたちでも元が何かは分からんじゃろうな」
手の中に残った錆の砂を親指で均してみるが、そこに砂粒一つの金属の輝きもなく、錆びどころかまるで別のものになっているのではないかと思えるくらいだ、たとえドワーフであったとしてもこれでは何で出来ていたかが分からない。
まぁ材料が分かったところで、それで何を作っていたかが分からなければあまり意味はないのだが。
「とはいえ、あれだけ乱雑に円筒が置いてあるのじゃ、ここで作っておったのかのぉ」
これだけ広い場所で作っていたのだ、余程の数を量産していたのか、それとも工程がそれだけ多く、そこに何か専用の道具やらを色々使っていたとかなのか。
何にせよその様々な道具はどれもこれも仲良く錆の塊となっているのだが、これだけ荒らされているのだ、そもそも無事な物があったとしても、とっくにホブゴブリンどもが駄目にしているであろうが。
「やはりこの円筒以外は何もなさそうじゃのぉ」
これだけ形が残るような物を作り上げたのだ、それを作る物も相応に丈夫でなければならないと思うのだが、ワシは専門家でも当時の者でもない素人の考えだが、そう的外れな訳でもないとは思う。
とはいえ道具よりも先に朽ちていなくなった者に聞くわけにもいかないし、気を取り直してざっとこの広い空間を見て回ったが、隠れていたホブゴブリン以外は目新しい物はなかった。
「あとはあの先じゃが、マナの流れもさしておかしなところは見えぬし、面倒になってきたのぉ」
ここの施設はもう完全に死んでいるのだろう、変なマナの流れは見えず、幻術に関するような不自然なマナの流れもない。
むしろ外よりもマナが薄いと感じるほどだ、幻術の源はここではなくホブゴブリンが使っている物でもないだろう。
ならば非常に珍しい事であるが、自然にできた幻術であり、外と繋がっていなかったことを見るに、この遺跡がここにあったのも本当に偶然なのだろう。
「ま、入り口の洞窟を潰しておけば、しばらくの間はホブゴブリンも出てはこれんじゃろう」
ならばもう戻るかと、広場の柱の傍に親指ほどの大きさの火の玉を浮かべてゆき、踵を返して今まで通ってきた箇所にも同じような火の玉を、塞いだ先にも適当に火の玉を放り込みつつ、ワシは足早に遺跡を後にするのだった……




