3336手間
さらに奥に進むと大きな部屋に道中で見た円筒を横たわらせた形のベッドのようなモノがあったのだが、大きな部屋なだけあって等間隔に大量に並べてあり、何か儀式めいた物を感じ眉根を寄せる。
殆どの円筒が破損しはぎ取られているのだが、たまに形を保っているものがあり、その中は何もないかドロドロとした何かが溜まっているか、まるで中から血が溢れたかのように周囲を汚しているものがある。
後者はホブゴブリンも不気味と考えているのか、手を付けられた様子がなく、あやつらでさえ避けるとは、やはりワシも興味よりも忌避する気持ちの方が強くなる。
「本当にろくでもないモノが入っておったんじゃろうなぁ」
単純に壊れていないから金属片をはぎ取りにくかったから、ただ単に手を付けていないという可能性も十分にあるが。
一応無事で綺麗な物を調べてはみるが、特に何かに繋がっているという様子もなく、そこでもしかしたらこれは何らかの魔導具かもしれないと思い至り、表面に手を触れマナを流し込みその回路を探ってみる。
「おぉ、やはりこれは魔導具じゃったか」
細く複雑な回路を喰らいその効果を読み解くが、酷く複雑で繊細な割にその効果は中にあるモノを冷やすという実に単純なものだ。
中の物を冷やす箱となると氷室であるが、わざわざこんな人が一人くらいしか入れない小さな箱よりも、例えばこの部屋全体を丸ごと冷やした方が良いのではないだろうか。
確かにこの大きな部屋丸ごとよりも、箱一つの方が使用するマナは少なくなるであろうが、それでも氷室と同じような用途であれば、小さな箱を増やすよりも大きな部屋を冷やした方が効率が良いのではないだろうか。
「それか、この小さな箱しか冷やせる魔導具を作れなかったとかかの」
いつの時代か分からないが、数千巡り以上も形を保っている物を作り上げた者たちが、その程度の技術力かと考えると疑問しかないが、ワシには思いもよらない何か問題でもあったのだろうか。
それか冷やすという単純な効果の割に、マナを巡らせる回路が細く複雑で繊細だったので、その繊細さに見合う細かな物を大切に保管していたとかであろうか。
しかし、わざわざそんな物を冷やして保管するなぞ、どんな物を保管していたのかはさっぱり思いつかない。
「ふぅむ、何か貴重な道具を冷やして? いや、そんな必要はあるのかのぉ。あとは、貴重な薬草とか薬の材料くらいかの」
それでも円筒形よりも四角い箱の方が便利だと思うのだが、まぁ魔導具は形も重要と聞くし、これもそれなのだろうととりあえず納得しておく。
ともかく魔導具の専門家ではないワシには、効果が何かくらいしか分からないので、これも土産に持っていくかと、どうやら土台が地面と固定されているようなので、土台をスパッと切って円筒を腕輪に収納する。
「そういえば、これは回路を喰ってしまったからの」
回路を喰った魔導具は、魔導具としての機能が完全に死んでしまうので、もう一つ無事な奴を見つけこっちを学者に、もう一つをドワーフたちにやるかと、合計で二個の円筒を腕輪に収めておく。
さて良さそうな物は他にないしこれで帰るかと踵を返したところで頭を振って、いやいやと自分にツッコミを入れる。
「そういえばホブゴブリンを駆除しに来たんじゃった」
ワシがここをじっくりと見ている間にホブゴブリンが来なかったのですっかりと忘れていたが、この遺跡はホブゴブリンの巣窟と化していたのだった。
それにここで何かを大事に保管していたのならば、それを利用する場所が近くにあるはずだと、面倒なホブゴブリンはさっさと殲滅してそっちをさっさと調べるかと足取り軽く、出遭うホブゴブリンどもを灰燼と化していくのだった……




